許し合う

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 困ったことは続くもので、うちのソファに義治さんがいる。  夫もいるのに、変なの。  所在なさそうに義治さんはちょこんと座って、借りてきた猫ってこういうことを指すのねと思ったりした。夫は夫で、自分の家なのに落ち着かなさそう。 「調味料さんが結婚することになって…」  義治さんが口を開く。彼女からたまに貢がれる調味料がなくなるだけで生活がおぼつかなくなる中年を哀れと言わずなんと例えよう。  私の隣りで弦くんは怒りにどうしようをぐるぐる巻きにして、それでも大人だから冷静を保とうと営業スマイルを維持している。  しかも調味料さんの結婚を知ったおかっぱさんが義治さんの部屋に来るようになってしまって、にっちもさっちもいかないそうだ。義治さんは一人で集中しないと物書きができない人。安アパートの薄いドアをおかっぱさんはずっと叩くらしい。 「警察に行ってみたら?」  夫が言った。 「この風体でストーカーされてるなんて信じてもらえませんよ」  義治さんの言葉を常識人の源くんは深く納得する。  仕方なく、行くあてのない義治さんと一旦同居することになった。私と弦くんが同じ部屋になったら一部屋開けられる。しかし義治さんは納戸でいいと言った。 「3畳くらいしかないよ。窓もないし」  私は言った。閉塞感が半端ないので扇風機とか季節の物置きにしている。 「平気」  と義治さんはその独房のような部屋の荷物をずらし、少しばかりの荷物を広げた。衣類とパソコンとガラスのようなもの。 「箱庭? へえ、かわいい。こっちは苔ね」  器用貧乏の代表みたいな人だ、義治さんは。 「次の舞台の小物。まだ途中だから触らないで」  とはにかんだ。それはそんなに緻密に正確に作らなくてはいけないものなの? 手を抜いて私との時間を作ってくれまいか。  もうその必要もない。使っていない我が家のビーズクッションが義治さんのお尻に、夫が使っていない棚を運び入れ、服や本があっという間に整理された。  三人での生活はことのほか、楽しい。  細かい作業が得意な弦くんが箱庭作りを手伝う。 「すごいですね。僕より全然上手だ」  義治さんが感心する。ピンセット片手に夫は褒められて嬉しそう。 「好きなんですよ。今度、釣りどうですか?」 「あんまりしたことないな。若いときに釣り堀に行って無駄な時間は過ごしましたけど」 「逆に釣り堀って行ったことない」  納戸に大人三人がひしめくだけで息苦しい。お尻が大きな私がむしろ邪魔。配電盤みたいのがあってうるさいのに、いつものように音楽をかけることもしない。  夫と義治さんて似ていないと思っていたのに、波長は近いのかもしれない。そうでなければ愛していない。  小さなベンチのような置物にコーヒーが3つ並んでいる。私と夫は色違いの対のカップ。はっとした。義治さんは気にしていないだろうか。  平日は夫は仕事に出る。私と義治さんは二人きり。でも、セックスはしない。義治さんが集中できるように私も声をかけない。夜からは仕事に出てしまうから夫と二人の今まで通りの生活。でも夫は気を使ってシュークリームを3つ買ってきちゃう人。
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