#1 sideリア     笑顔の裏側

1/7
前へ
/163ページ
次へ

#1 sideリア     笑顔の裏側

「行ってきます、お父様お母様」  春の陽気に眠気の誘われそうな4月。今日から、大学の夏学期が始まる。  私は、毎朝亡くなった両親の遺影に手を合わせ、挨拶をしてから出かけるのが習慣だ。  両親と言っても、本当の両親ではない。いわゆる養父母だった。  養父(ちち)ダニエルと、養母(はは)レナーテ。二人はとても仲の良い夫婦だった。  養父は数ヶ月前に流行病(はやりやまい)で、養母は、6年前に事故で亡くなった。  20年前の戦争の最中(さなか)、ゴンドル族の私は、森の中に放置されていたところを養父に拾われた。敵対していたゴンドル族の赤ん坊であるにも関わらず、両親は私を育ててくれた。  それ故、早々に本当の娘でない事を知らされたが、私は養父母を本当の両親のように思っているし、ここまで育ててくれて感謝している。  リビングにある鏡で、外見の最終チェック。  ササッと簡単に済ませて玄関に向かおうとすると……。 「待ちなさい、リア」 「お兄様……」  私を呼び止めたのは、義兄(あに)のアルフレッド。  亡くなった両親の実子で、私より4つ年上の24歳。国内ではそれなりに名の知られている企業に勤めていて、毎日忙しそうにしている。お父様譲りの紺色の髪に、サファイアブルーの瞳。ご近所の奥様方からは、イケメンであると密やかに言われている。義妹(いもうと)の私から見ても、クールで優しい人だ。  だけど……
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

133人が本棚に入れています
本棚に追加