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「ほら、髪から耳が出ている。身だしなみには気をつけなさい」
義兄が、私の赤い髪を整えてくれる。
ゴンドル族と人間の違いのひとつは、耳。
耳の先端が、動物のように少々毛が生えているのだ。
それ以外の見た目は、人間となんら変わりはない。
戦争に負けたゴンドル族は、今でも人間から差別を受けていると聞く。本来、今の法律ではゴンドル族は政府の管轄下で生活しなければならないそうだ。
そのため、私はずっとこうして耳を、正体を隠して生きてきた。
養父がそう言っていたという事は、私の他にもゴンドル族の生き残りがいるのかもしれないけれど、私は今までに出会ったことがない。もしかしたら、私のように隠れて生きているのかもしれない。
「ありがとう、お兄様」
髪を撫でられ、そのまま頬を包むように義兄の手が触れる。
「俺も一緒に出よう。……行ってきますのキスを──」
「……」
促され、私は言われるがままに顔を上げる。
行ってきますのキス──
それは、私たち家族の間では当たり前の事だった。
だけど、養父が生きていた頃は、頬にキス、だったのに──。
義兄はいつしか、私の唇を求めるようになった。
口の中で、ねっとりとしたものが絡みつく。
「ん……は……」
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