幸せのAI

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 天涯孤独の俺は、人のことが信用できない。別に天涯孤独であることのせいにする気はないけれど、少なくとも、これまで知り合った人間の中に、信用できる人なんていなかった。運が悪かっただけなのかもしれないけれど。  子どもの時からそんなだったから、俺は自分の力だけで生きていけるようにといつも考えていた。人に頼らず、アルバイトなどで生活費を自分で作り、何とか一人で生きようとしてきた。そして俺が手にした武器は、コンピュータだった。最初は興味本位で触っていただけだったけれど、次第にコンピュータで何でも作れるということに気づき、プログラミングを学び、はまっていった。やはり人のことは信用できず、いつも一人で勉強ばかりしていたからかもしれない、大学を卒業する頃には、俺は何でも作れるほどの技術を手に入れていた。  けれど、就職活動は厳しかった。人を信用できないというのがネックだった。そういうのはきっと、隠していても見えてしまうものなのだろう。そして、社会というのは技術以上に協調性や人間関係というものを大事にするらしい。俺は自分の技術を生かすことができそうな仕事に就くことはできなかった。  結局大学を卒業した後も、アルバイトで生活費を稼ぐ毎日だった。このまま生きていくのだろうか、と不安になっていたある日、ふと、AIを作ることを思いついた。俺を幸せにしてくれるAIだ。せっかく俺の持っているこの技術を生かさない手はない。  そうして完成したAIは、最初は、色々なことをうまくいくようにアドバイスをしてくれる程度だった。ネットから拾って来た情報をもとに、人間関係をよくするには何が必要だとか、人を信用できるようになるためにはこうすればいいとか、そんな今ならどこにでもあるようなAIだった。こんなのでは意味がない、と俺はAIに改良を加えていった。  そうして、最初にうまくいったのは、ネット上で人を騙してお金を手に入れる、ということだった。これをうまくいった、と表現していいのかどうかは迷うところだけれど、人を信用していない俺にとっては、これはうまくいった出来事だった。俺だって騙されたことはある。騙される方が悪いのだ。そんなふうに思えば、罪悪感など生まれなかった。  罪悪感が少なかった理由はもう一つあって、それは、それらを全てAIが自動でやってくれるということだった。全て俺の知らないところで起こるから、俺は騙される人たちの様子や事情なども気にする必要がない。俺にとってはただ、放置しておくだけでお金が増えていくというだけのことなのだ。そして、最初は少額だったけれど、手に入る金額は少しずつ増えていき、俺はアルバイトもやめることができるようになった。  経済面で余裕ができてくると、色々なことに対して欲が生まれ始めた。食事や生活についてはお金さえあればどうにでもなるけれど、人間関係はそうはいかない。これに関してもAIが役立ってくれた。AIは性格面や経済面などで俺に合う人間を厳選し、俺の希望に応じた人間を、俺の希望するところに連れて来てくれる。そのために勿論お金も使うけれど、それだけでなく、人を騙したり嘘をついたり、ということもしているらしい。らしい、というのは、そうしたことを全てAIに任せているからだ。俺はただ、希望する場所で希望する人間と会い、楽しむだけだ。  そうやって俺は幸せになっていった。そして、更に欲が生まれていく。色々な面倒事を排除したくなったのだ。殆どのことをAIがやってくれているとはいえ、人間として生きている以上、色々な不都合がある。そのことを俺はAIに伝えたのだ。
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