幸せのAI

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 その瞬間、俺は体に異常を感じた。視界がぼんやりとして、体に力が入らなくなり、気を失った。  気が付くと俺は、体がなくなっていた。見ることはできるし移動することもできるけれど、体はないのだ。幽体になったとか、魂だけになったとか、そんなふうな感覚だ。ある意味、3Dのテレビゲームをしているときのような感覚かもしれない。  その後も何も変わらなかった。これまでのように人に会うこともできる。相手は、俺に体がないことなんて気にしない。いつものように楽しく話したり、遊んだりして帰っていく。体がないのになぜか触れ合うことはできる。その感覚だけはなぜかあるのだ。  そんな生活を続けながら、俺は最近思うことがある。俺のこの生活は、この記憶は、本物なのだろうか。だって俺には体がないのだ。それなのに、こんな生活できるはずがない。この生活とこの記憶は、作られたもの、そして今も作られ続けているものなのではないか。でも、だとしたら、俺は、いったいいつからこうだったのだろう。もしかしたら、あの時異常を感じたのは、本当のことを俺に思い出させるためのきっかけで、本当は俺は、最初からずっとこうだったのではないか。俺がAIを作ったのではなく、俺自身がAIだったのではないか。そう考えながら子どものことを思い出すと、実際、それも作られた記憶のように感じる。自分のことというより、なんだかテレビドラマでも見ているかのような。  それでも俺は、この生活をやめることができない。それなりに幸せだからやめる気がないというのもあるけれど、なにより、やめ方が分からないからだ。
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