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「ええ、こんばんは。ロード・ブラッドロー」
よりによってこんなひとけのないところで会ってしまうとは……。
ヴィンセント・ブラッドロー侯爵。二十二歳。両親は他界しているため、侯爵家の若き当主。未婚。結婚歴もなし。
結婚相手の条件としては申し分ないが、令嬢たちのあいだでは要注意人物とされている。女性にものすごく優しく、流した浮き名の数がすごいらしい。某公爵夫人の愛人だとか、王家にまで愛人関係が及んでいるとか何とか。『赤き浮き名の魔王』の赤は修羅場で流れた血とヴィンセントの瞳の色にかかっているだのうんぬん。どこまで本当か知らないが。
『ロード・ブラッドローに近付いてはいけないよ。絶対にだ。万が一、彼がヘレナから歩いて十歩以内に立ち入った場合、ああ、僕は彼と刺し違えてしまうかもしれない……!』
このようにわたくしも兄から三日に一度は聞かされていた。
ごめんなさい、お兄様。今、確実に歩いて二歩ぶんくらいのところに立たれているけど、不可抗力というやつなので刺し違えるのはおやめになってくださいね。
「風に当たろうとして迷ってしまいまして。引き返そうとしていたところですわ」
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