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お前も蝋人形にしてやろうか!
「それは大変だったね。お手をどうぞ」
笑顔で取り繕ったら、眩しい笑みとともに白い手袋に包まれた右手を差し出された。戻るならエスコートして一緒に戻るというのが当たり前だろう。そもそも男性側から声をかけてきたというのがマナー違反なのだが、こんなひとけのないところに娘がひとりきりというほうが非常識なので文句は言えない。
仮にも侯爵、断るのもぶしつけすぎるので、白い手袋の上に同じく白い子山羊革の手袋をつけた手を乗せた。慣れたように、手を腕にかけさせられる。正直怖いが、変なことをされそうになったら叫んで扇子で喉を狙うしかない。そう思って扇子を閉じる。
「時にレディ・ヘレナ」
心を読まれたのかと思って体がこわばったが、ヴィンセントは眉尻を下げて困った顔をしていた。いちいち演技くささを感じるが、目鼻立ちが整っているので見ごたえがある。
「はい」
「気を悪くしないで聞いてほしいんだけど。さっきロード・デイルとすれ違って、『ようやく婚約破棄だ! 胸なし女からの自由だ!』と言っていたんだけど」
一瞬、思考が止まった。
あのばか息子、蝋人形にしてやろうか?
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