は?

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は?

 夜もふけた一月の舞踏会、壁かけランプの火もまばらな廊下で、正対したわたくしの婚約者が口をひらく。 「君との婚約を破棄したい」  婚約者、サイラス・デイルの腕に手をかけてぴったり寄りそっているのは、金の巻き毛を華やかにまとめ上げた女性。わたくしを含めて三人以外、人影はない。 『は?』と口に出しそうになったのを、伯爵令嬢としてのたしなみで抑える。  ダンス室で踊っていたらサイラスに連れ出されたのだ。そして隣の女性が現れた。たしか最近デビューした男爵令嬢ドロシー・アスター。まさか恋仲になったから乗り換えたいとでもいうのだろうか。  貴族の結婚は家のため。結婚は令嬢の務め。そう幼いころから分かっていたから、おとぎ話のような恋愛結婚に憧れながらも叶わないとわきまえてきたのに。 『あんなに歯の浮くような口説き文句を並べておきながら婚約破棄? わたくしの持参金目当てのくせにどのお立場でいらっしゃるのかしら? そもそもそんな簡単に婚約破棄できるとお思いで? おめでたい頭ですこと』  笑顔で言い放ってしまいそうになるのをこらえた。 「理由をお伺いしても?」
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