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澄生、いた。
傾き始めたオレンジ色の陽光が充満する図書室。その入り口から中をのぞけば、予想通り、幼なじみの真宮澄生は六人掛けの閲覧席の右一番奥の定位置に座っていた。頬杖をついて分厚い本に視線を落としたままだから、私に気づいていない。
大きな窓から差し込む夕方特有の茜色の太陽が、澄生を包んで夕色に染め上げている。その周りで弾け煌めく光の粒。私の目に映る澄生はいつでもきらきらと特別な色をしている。
―――…… それ、幾何反射っていうらしいよ
いつものように素っ気なく、ぶっきらぼうに教えてくれた澄生。
空気中の埃に光が反射して輝いて見えるんだよ、だから俺が輝いてるわけじゃない、亜緒の勘違い。
そう困ったように澄生は笑ったけれど。
ほんと、澄生っていろんなことたくさん知ってるくせに。どうして、肝心なところを聞いてくれてないのかな。
私、ちゃんと、いつでもっていったのに。
陽光が錯乱する朝や昼だけじゃなくて。
細くて頼りない月光の下でも、揺蕩う雲に邪魔されて微かな光さえ届かない視力の死んだ空間でも。
いつでも、澄生を見つけられるってことなんだよ。
……私はね。
目をつぶってても澄生がいればわかるよ。
私の中の一番最初の澄生に関する記憶を辿ってみても、それは揺るがない。
初めから、幼なじみという枠で澄生を想ったことがない。
一緒に登園するとき手をつなげば、その感触に手のひらが心臓になったみたいに体中の血が集まってきたし。
台風が怖いふりして澄生と同じ布団に潜り込めば、その石鹸の香りと柔らかな息遣い、大丈夫だよってぎゅっと抱きしめてくれる温かさに思いっきり甘えたし。
女の子はませている、なんていうけれど。
ほんとに、私はとんでもないマセガキだと思う。
―――…… 澄生は、好きで好きでたまらない、私だけの特別な男の子。
だから、このきらきらは幾何反射じゃないんだよっていつになったら澄生に教えられるだろう。
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