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「誘われたけど行かない」
「なんで?」
「だって、澄生がいない。一緒だったら行く」
「そりゃ、クラス違うし無理だな」
そうなのだ。頑張って勉強して、せっかく澄生と同じ高校に入学したのに。意地悪な神様のせいで私たちは別々のクラスなのだ。
「そうだけど、もうそれが正解だけど……、そうじゃない、」
まったく私の真意に気づかない澄生は不思議そうにこちらを見る。
すぐ隣にある切長の奥二重の目。その中心はブラックホールのように真っ黒で。引き込まれそうな衝動になんとか抗うだけで精一杯。その漆黒の瞳孔を囲んでいるのは少しグレーがかったような私を惹きつける不思議な色。
深くて、澄んでて、冷たそうに見えるけど、ほんとは温かくて。
視線を逸らさず私を見遣るそれに自分の姿が映っているから、嬉しくてたまらない。
「澄生がいないと、帰り1人じゃ怖いから」
「…同じ方向のやつ、いない?」
「……いない、こともないけど」
「けど?」
「とにかくいいの。澄生と一緒のクラスだったらよかったのになぁ。澄生がいなくちゃ嫌だもん」
澄生の中に私の居場所があれば私の抱いているのと違う感情でもいいと思うのに。やっぱりそんなんじゃ物足りなくて。でも、伝えられなくて……。
わがままにプイっと視線を逸らす。
それに、同じ方向は、あのチャラ男なんだよ。そんなの絶対に嫌だし。
またあの感触がよみがえって、思わず身震いすると
「……亜緒」
ふわり、頭上に感じたぬくもり。
それは、間違いなく澄生の手のひらの柔らかさだ。
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