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「……」
クッキーの入った紙袋を手に、僕は松尾さんが管理しているお家に向かった。すると、家の前を帽子を被った金髪の人がうろうろしているのを見つけた。松尾さんだ!
僕は駆け足で松尾さんのもとに足を進める。
「ま……」
松尾さん、と言いかけて僕は口を噤んだ。
誰かに松尾さんの名前を聞かれたら大変だ!
それでも僕の小さな声が聞こえたらしい。松尾さんは僕の方を見て軽く手を上げる。
「海君、こっちだよ!」
松尾さんの声は明るい。それに大きい。ああ、そんな大声出したらご近所の人に聞こえちゃいますよ!?
はらはらしている僕をよそに、松尾さんは長い足で僕に近付いてくる。
「迷子にならなくてよかった。良い子」
「っ!?」
まるで動物を撫でるかのように、松尾さんは僕の頭を撫でた。僕は驚きのあまり声を出せない。僕を見つめる松尾さんの表情はとても嬉しそうで、なんだか僕の胸は落ち着かなくなった。
「じゃ、ご飯食べよう。もう準備してあって……」
何事も無かったかのように、松尾さんは僕の手を引いて家まで連れて行こうとする。
「あ……」
手、繋いでる……。
どきどきしているのは僕だけ?
松尾さんの顔は……前を向いているから分からない。
ドラマとかで手なんか繋ぎ慣れているのかな……。
そんな時、家に向かって歩みを進める僕らの背中に、女性が声を掛けてきた。
「みっちゃん?」
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