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「……僕には、本当の松尾さんを見せてくれて良いです!」
「え?」
僕は勢い良く立ち上がる、が、足が痺れていたことを忘れていた。
足がもつれて倒れそうになったところを、松尾さんに抱きとめられる。
「っ!」
「危ないよ、海君」
「す、すみません」
ゆっくりと、僕は座布団の上に戻される。
め……めちゃくちゃ良い匂いした!
心臓がばくばくうるさい。真剣な話をしていた最中なのに、不謹慎ながらもときめきを覚えてしまった。
「平気? 顔赤いけど」
「平気です……それよりも!」
僕は胸の動悸を誤魔化すために咳払いをした。
「松尾さんは、僕の前では格好良いキャラでいなくても良いです!」
「な……」
目をぱちくりさせる松尾さんに僕は言う。
「僕はただの大学生でカフェのバイトで普通の人間ですけど、お話を聞くくらいは出来ます!」
「あ、うん……」
「格好良くない松尾さんにも、僕はコーヒーをドリップします! パスタもチンします! ね、ひとりでも、ありのままを見せられる相手が居ればきっと気が楽になりますよ! 僕はそのお手伝いをします! させて下さい!」
「あ、ありがとう……?」
松尾さんは首を傾げている。
いっきに喋りすぎちゃったかな……でも、まぁ良いや!
僕は松尾さんの役に立ちたい!
「さぁ、今すぐに素の松尾さんを見せて下さい」
「……いや、いやいや」
松尾さんは頬を掻く。
「……今が一応、素なんだけどな……」
「ええっ!?」
今度は僕が目をぱちくりさせる。
「普通に格好良いじゃないですか!? 僕の前でクールなキャラを演じているのではないのですか!?」
「クールって……」
松尾さんは困ったように眉を下げる。
「そんなんじゃないよ。喋るの……あんまり得意じゃないだけで」
「苦手? トーク番組では司会の人といっぱいお話をされていたじゃないですか」
「だからそれは、喋りも得意な松尾ミヤビを演じているんだってば……」
「あ、そっか……」
作品の役を演じて、普段からの自分も演じて……松尾さんの心が休まる時ってあるのだろうか。ますます心配になる。
「あのさ……」
松尾さんが僕を伺うような目をしながら口を開いた。
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