画面の中の彼

6/6
前へ
/27ページ
次へ
「俺、こんなんだけど、良いの?」 「えっ?」  僕が首を傾げると、松尾さんは金髪をいじりながら言った。 「本当は幻滅してるでしょ? こんな暗い奴……」 「幻滅だなんて、そんな!」  どうやら松尾さんはネガティブモードらしい。  どうやったら、元気になってくれるかな?  そうだ、雑誌……! 「その雑誌なんですけど、松尾さんの写真に惹かれて買ったんです!」 「え? 俺の写真?」  松尾さんは雑誌の表紙を眺める。 「なんで?」  いや、なんでって訊かれても……。  恥ずかしいけど、嘘を吐くのもなぁ……。  僕は覚悟を決めた。 「僕は松尾さんにハマっています!」 「な……」 「あ、嫌ですか? 男にハマったとか言われるのは」 「い、嫌じゃないけど……珍しいから、男の子のファンって」  ファン?  そうか、僕は松尾さんのファンなのか……ま、良いか!  僕は深く頷いた。 「そうですとも! だから、自分の応援したい人を助けたいんです! もちろん、ご迷惑じゃなければの話ですけど」 「そっか……それは、嬉しいな」  ふっと松尾さんは笑う。  なんだか、リラックスしているような、そんな感じの笑みだった。 「それじゃ……連絡先、交換しようよ」 「連絡先!?」  僕は驚く。  だって、連絡先だよ!?  良いの? 僕みたいなのが交換しちゃって!  僕の考えを察したのか、松尾さんは頬を掻く。 「あ、他の人には内緒にしておいてくれると助かるけど」 「も、もちろん! そうしますとも!」  震える手でスマートフォンを操作して、僕は松尾さんの電話番号とメールアドレスをゲットした。メッセージアプリは、トラブル防止のために今のところは身内以外では使えないんだって。大変だなぁ。 「あのさ……電話とか、俺からしても良いの?」  してくれるんですか!?  僕はこくこくと首を縦に振る。 「いつでもどうぞ! あ……夜だと都合が良いです!」 「うん……ありがとう」  すっと伸びた松尾さんの手。  もしかして、握手ですか……!?  僕は手の汗をズボンで拭いてから、松尾さんの白い手をぎゅっと握った。 「素の松尾さん、いっぱい見せて下さい!」 「……ありがとう」  松尾さんは柔らかく笑う。  それは、トーク番組での笑顔よりもずっと自然で、僕はそれをずっと見ていたくなったのだった。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加