直接、会いたい

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直接、会いたい

 眠い。  昨日……というか、日付が変わっちゃってたから今日も夜更かしをしてしまった。  そう、また僕は松尾さんの出演作品を観ていたのだ。  今回のは主役じゃないやつ。けど、作品の重要な鍵を握っているっていうミステリアスな役だった。素の松尾さんとはちょっと違う、クールな人物。とにかく、めちゃくちゃ格好良かった! 「ふわぁ……」  どうにか今日の最後の授業を乗り越えて、僕は出席カードを提出してから大学を出る。あ、図書館に寄ってレポート用に借りた本を返さないと。僕は鞄から本を取り出して、滅多に近寄らない図書館に向かった。 「あ……」  本の返却を終えて、僕はなんとなく館内をぶらぶらしていた。すると「話題の本」のコーナーに、松尾さんが今度出る映画の原作の本が並んでいるのを見つけた。最初からそうなのか、後からデザインが変更になったのかは分からないけど、その本には松尾さんとヒロインの女性の写真が表紙になっている。 「……」  気がつけば僕はそれを手に取り、貸し出しカウンターに向かっていた。 「この本、リクエストが多くて急遽たくさん入れたんですよ?」 「え?」  手続きをしてくれている司書の女性が微笑む。 「人気ですもんね、ふたりとも」 「あ……そうですね」  ふたりというのは、松尾さんとヒロインを演じる女性のことだろう。正直、女性の方はあんまり詳しく知らない。可愛い人だな、とは思うけど、そんなに深くは知らなくても良いかな……。 「美男美女って良いですねぇ。私も映画行こうかな」 「そう……ですね」  そうだな……。  いくら役の姿とはいえ、このふたりはとても釣り合っている。  松尾さん、彼女は今、居ないのかな……。  居たとしても、本当の自分を隠して付き合っているのかな。  そんな辛い思いをしているのは、嫌だな……。 「学生証、お返ししまーす」 「あ、はい」  僕は本と学生証を受け取って、なんとなく早足で図書館を後にした。
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