直接、会いたい

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 他の大学はどうなのか知らないけど、僕の通う大学は座る席を決めずに授業が行われる。だいたいみんな、初日に座った席に座り続けるから決まっているようなものだけどね。  僕は定位置になっている右端の席に座ってぼんやりと窓の外を眺めていた。すると、明るい声で「おはよう!」と肩を叩かれる。 「連休明け、だるいなー!」 「おはよう、笹原」  同じ学年の笹原は僕の隣に腰掛けて、くたびれたペンケースとノートを机の上に広げた。学科とか下の名前とか、詳しいことは知らない。偶然、席がお隣さんになっただけの友人だ。遊びに行ったり飲みに行ったりはしないけど、顔を合わせれば軽く話をする仲。 「僕はゼミの先生が出ろって行ってた授業を受けたから連休を過ごした感じは無いかな」 「真面目か!」 「ゼミの先生、怖いもん」 「それでも真面目か!」  笑いながらそう言った笹原は、僕の方をちゃんと見てからしばらく固まった。   「え? どちら様?」 「ちょ、近い!」 「影武者?」  顔を近づける笹原を僕は押し返した。  笹原は「ええ……?」と目を丸くする。 「何? イメチェン?」 「……まぁ、そんなとこ」  僕は、ふわっとするワックスをつけた髪をそっと摘んだ。  予約した美容院は口コミ通り親切な美容師さんがいて、いろいろとアドバイスをしてくれた。あまり派手にならないように軽く毛先にパーマを入れてもらい、お手入れが楽なヘアセットのやり方を丁寧に教えてもらったのだ。ちょっとは、垢抜けたかな?  肌には化粧水と日焼け止めを塗っている。眉毛もちょっと形を変えてみた。 「なんか……彼女と同じ匂いがする」 「へ?」 「お前、恋人出来たん……? 連休中、本当は遊んでたな……?」 「違うよ! これはたぶん、化粧品とかそういう……」 「残り香か? きゃあ! えっち!」 「違うよ!」  その時、ポケットのスマートフォンが震えた。僕は慌てて確認する。 「あ……」  メールが来た。  返信だ。松尾さんからの……! 『ごめん、今見た。移動中だから、また連絡するね』  うわぁ……!  メール、もらっちゃった!  じっくりとそれを眺めていると、横から笹原が小さく言う。 「にやにやしちゃって、お熱いわぁ」 「っ……!」  僕はさっとスマートフォンを隠す。  一応、誰かに見られても困らないように、名前の登録は「Mさん」にしている。松尾さんに迷惑をかけるわけにはいかないから。  タイミング良くチャイムが鳴って、先生が教室に入ってきた。室内は自然と静かになる。  僕は頭を切り替えて授業に集中した。
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