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松尾さんからの電話があったのは、その日の夜十一時過ぎだった。
ベッドで寝転んでうとうとしていた僕は、着信音を聞いて飛び起きた。
「も、もしもし!」
『もしもし? ごめん、寝てた?』
「いえ! ばっちし起きてました!」
『ふ……そっか』
松尾さんの軽く笑った声。
良い声だなぁ……もっと聞いていたい。
『今度の週末って、バイト入ってる?』
「週末ですか? はい、バイトです」
『そっか、良かった。俺、またそっち行くから食べに行くね』
そっち行くから……?
食べに行く……?
え!?
会えるの!?
嬉しい……!
僕はスマートフォンをぎゅっと握り締めた。
「ありがとうございます! ちゃんと用意して待ってます!」
『用意? なんの?』
「えっと……パスタと、コーヒーを……」
『ふふ。ありがとう。楽しみにしてる』
それから、と松尾さんは続ける。
『夕飯、爺ちゃんの家で作ろうと思うんだけど、海君も一緒に食べてくれない?』
「え? 良いんですか?」
『この前、ちゃんとおもてなし出来なかったから……俺の手料理になっちゃうけど』
松尾さんの手料理なんて……すごい贅沢だ!
僕はこくこくと首を縦に振った。
「楽しみです! ありがとうございます!」
『それじゃ、また週末に……最近どう? なんか、変わったことあった?』
「え……」
変わったこと、ありました。
僕は髪型を変えたし、松尾さんの思い出のレモンの未来が怪しくなったし……。
『海君?』
「あ、えっと、直接会った時に報告します」
レモン存続の件についてはまだ分からないことだし、髪型については見せた方が早いし……。
僕の言葉を聞いて、松尾さんは軽く笑った。
『変化があったんだね。分かった。直接聞けるのを楽しみにしてる』
「はい……」
『遅い時間にごめんね。明日も忙しいでしょ? そろそろ切るね』
もっと、声を聞いていたい。
けど、松尾さんもきっと僕より忙しいよね……。
「はい、実は一限から授業なんです」
『そっか。それじゃ、本当に早く寝ないとね』
「すみません。松尾さんもお疲れ様です」
『ありがとう……じゃ、おやすみ海君』
「おやすみなさい、松尾さん』
電話が切れた後、僕はまたベッドに横になった。
雰囲気が松尾さんに似てるって言った先輩の言葉が頭をよぎる。
……ちょっと、会うのが恥ずかしくなってきた。けど……。
「やっぱり、直接会いたいな……」
週末、松尾さんが訪れるというのが嬉しくてたまらない。
僕は心を落ち着かせようとぎゅっと目を閉じた。
松尾さん、どんなごはんを作ってくれるんだろう……。
胸がどきどきして落ち着かない。
結局、僕は日付が変わってもなかなか寝付くことが出来なかった。
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