58人が本棚に入れています
本棚に追加
ふたりの時間
「……海君、ですか?」
「そ、そうです……」
週末、がらりと空いているカフェの中で、松尾さんはぽかんとした顔で僕を見る。
僕は苦笑しながら、注文を取るためにレジに立つ。松尾さんは、財布を取り出しながらちょっと大きな声で言った。
「イメチェン? 似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます……ちょっと切っただけですけど」
「パーマ当てたでしょ?」
「ちょっとだけ……」
「へぇ、良いなぁ」
そう言いながら、松尾さんは自分の金髪を指でいじる。
「そろそろ、俺も髪型変えると思う」
「え? お仕事の関係ですか?」
「うーん。詳しくは言えないけど、まぁ、そんなとこ」
もしかして、新しいドラマかな!?
それか、写真集とか……!?
どきどきしながら僕はエプロンで手の汗を拭いた。
「いつもの、で」
ちょっと笑いながら松尾さんが言う。
僕は確認のため、メニューを言葉にした。
「たらこパスタと、コーヒー……ホットで良いですか?」
「うん」
今日はむわっと暑いから、アイスコーヒーかな、って思ったけど、松尾さんはいつも通りホットのコーヒーを選んだ。
僕は千円札を受け取ってお釣りを松尾さんに渡す。一瞬だけ手が触れ合って、僕の心臓が跳ねた。
「お席までお持ちしますね」
「ん。ありがとう」
いつもの席に向かう松尾さんの背中を見送りながら、僕はパスタとコーヒーの準備をする。
ほわほわと湯気が熱そうなコーヒーが入ったカップを見つめると、どこかにやついている自分の顔が映っていた。
気を引き締めないと!
僕はぎゅっと手を握って気合いを入れ、用意したそれらをトレイに乗せて松尾さんの席まで運んだ。
最初のコメントを投稿しよう!