ふたりの時間

2/5
前へ
/27ページ
次へ
「ありがとう」  そう言いながら、松尾さんは僕のことをじっと見る。なんだか落ち着かないな……。  僕はそわそわする心を悟られまいと「冷めちゃいますよ」と松尾さんに言った。 「パスタ……美味しいうちにどうぞ」 「うん。そうする」  食事の邪魔になるだろうと、僕はカウンターに戻ろうとした。けど、フォークを握ったままの松尾さんに呼び止められる。 「待って。向かいに座りなよ」 「え!?」  僕は目を見開く。  まさか、そんなことを言われるとは思ってもみなかった。  驚く僕を見て、松尾さんは口元を緩めて言う。 「一緒に何か食べる? 奢るから」 「いえ……仕事中ですから」 「ひとりで食べるの寂しいなぁ」 「……仕事中ですから」 「シャンパン開けるよ?」 「うちは、アルコールは置いてません!」  僕の言葉に、松尾さんはおもいっきり吹き出した。  楽しそうなその表情は、画面で見るよりもやっぱりいきいきとしている。 「ごめん。なんか……こうやって話せるの、嬉しくて」 「……っ」  僕の心臓が跳ねる。  嬉しいって、思ってもらえた。  心を許しているってことだよね……?  ああ……僕も、嬉しい。  もう、どうにかなってしまいそうなくらい、嬉しいんだ……。 「……松尾さん、僕なんかで遊んでいたら、パスタもコーヒーも冷めちゃいますよ?」 「ああ、まぁ……その方が都合が良いんだけど」 「え?」  どうして都合が良いのだろう?  首を傾げる僕に、松尾さんは頬を掻きながら言った。 「……猫舌なんだよね、俺」
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加