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「ありがとう」
そう言いながら、松尾さんは僕のことをじっと見る。なんだか落ち着かないな……。
僕はそわそわする心を悟られまいと「冷めちゃいますよ」と松尾さんに言った。
「パスタ……美味しいうちにどうぞ」
「うん。そうする」
食事の邪魔になるだろうと、僕はカウンターに戻ろうとした。けど、フォークを握ったままの松尾さんに呼び止められる。
「待って。向かいに座りなよ」
「え!?」
僕は目を見開く。
まさか、そんなことを言われるとは思ってもみなかった。
驚く僕を見て、松尾さんは口元を緩めて言う。
「一緒に何か食べる? 奢るから」
「いえ……仕事中ですから」
「ひとりで食べるの寂しいなぁ」
「……仕事中ですから」
「シャンパン開けるよ?」
「うちは、アルコールは置いてません!」
僕の言葉に、松尾さんはおもいっきり吹き出した。
楽しそうなその表情は、画面で見るよりもやっぱりいきいきとしている。
「ごめん。なんか……こうやって話せるの、嬉しくて」
「……っ」
僕の心臓が跳ねる。
嬉しいって、思ってもらえた。
心を許しているってことだよね……?
ああ……僕も、嬉しい。
もう、どうにかなってしまいそうなくらい、嬉しいんだ……。
「……松尾さん、僕なんかで遊んでいたら、パスタもコーヒーも冷めちゃいますよ?」
「ああ、まぁ……その方が都合が良いんだけど」
「え?」
どうして都合が良いのだろう?
首を傾げる僕に、松尾さんは頬を掻きながら言った。
「……猫舌なんだよね、俺」
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