58人が本棚に入れています
本棚に追加
「……そうですね」
金髪のその人は、数秒固まった後でゆっくりと僕に言葉を返してくれた。良かった。一安心……。
僕は、改めて帽子の下の顔を見る。めちゃくちゃ、イケメンだ。睫毛、長い。鼻、高い。くちびる、セクシー……。
「……あの?」
「っ!」
また見ちゃった!
僕は慌てて話題を探す……えっと、えっと……!
「こ、コーヒー!」
「え?」
「コーヒー、アイスもありますよ!」
僕の発言に、金髪さんはきょとんとする。
気にせずに僕は続けた。
「今日みたいな天気の日は、皆さんアイスコーヒーを飲まれるんで! 次は良かったらどうぞ!」
「……ああ、そう……」
困ったように金髪さんは笑う。彼のこのような表情を見るのは初めてで、僕は思わずどきりとした。
「身体、冷やしたくないから……」
「あ、そうなんですね!」
金髪さんは「うん」と頷く。
「真夏とか、めちゃくちゃ暑い日は冷たいのも飲むけど……今は体調を崩せないから」
「なるほど、体調管理をされているんですね! 大変なお仕事をされているんですか?」
「え……」
僕の言葉に、金髪さんはまた数秒固まった。
それから、ぷっと吹き出す。
「……君、面白いね。大学生?」
「え? あ、はい! 小谷海です! 大学三年生です!」
「ふふ、オーデションかよ……」
笑いながら、金髪さんは食事を再開した。綺麗な動作でフォークを操り、パスタを口の中に入れていく。お皿の中はあっという間に空っぽになった。それから、コーヒーのカップを持ってそれに口をつける。もうぬるそうなそれを、金髪さんは美味しそうに飲み干した。
「ごめん。この後、予定あって急いでるから」
「あ、お邪魔してすみません」
「気にしないで」
金髪さんは、すっと立ち上がり小さな黒いカバンを肩に掛けた。
それから、そっと僕の耳元で囁く。
「今夜の十時からの『トーク・アクター』って番組、観てくれたら嬉しいな……」
「え?」
「ごちそうさま、です」
そう言い残して、金髪さんはカフェを出ていってしまった。
「え? 番組? え……?」
ぽつんと残された僕は、耳元で囁かれた言葉の意味が分からず、ひとり首を傾げていた。
最初のコメントを投稿しよう!