いつものセットメニュー

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「……そうですね」  金髪のその人は、数秒固まった後でゆっくりと僕に言葉を返してくれた。良かった。一安心……。  僕は、改めて帽子の下の顔を見る。めちゃくちゃ、イケメンだ。睫毛、長い。鼻、高い。くちびる、セクシー……。 「……あの?」 「っ!」  また見ちゃった!  僕は慌てて話題を探す……えっと、えっと……! 「こ、コーヒー!」 「え?」 「コーヒー、アイスもありますよ!」  僕の発言に、金髪さんはきょとんとする。  気にせずに僕は続けた。 「今日みたいな天気の日は、皆さんアイスコーヒーを飲まれるんで! 次は良かったらどうぞ!」 「……ああ、そう……」  困ったように金髪さんは笑う。彼のこのような表情を見るのは初めてで、僕は思わずどきりとした。 「身体、冷やしたくないから……」 「あ、そうなんですね!」  金髪さんは「うん」と頷く。 「真夏とか、めちゃくちゃ暑い日は冷たいのも飲むけど……今は体調を崩せないから」 「なるほど、体調管理をされているんですね! 大変なお仕事をされているんですか?」 「え……」  僕の言葉に、金髪さんはまた数秒固まった。  それから、ぷっと吹き出す。 「……君、面白いね。大学生?」 「え? あ、はい! 小谷海です! 大学三年生です!」 「ふふ、オーデションかよ……」  笑いながら、金髪さんは食事を再開した。綺麗な動作でフォークを操り、パスタを口の中に入れていく。お皿の中はあっという間に空っぽになった。それから、コーヒーのカップを持ってそれに口をつける。もうぬるそうなそれを、金髪さんは美味しそうに飲み干した。 「ごめん。この後、予定あって急いでるから」 「あ、お邪魔してすみません」 「気にしないで」  金髪さんは、すっと立ち上がり小さな黒いカバンを肩に掛けた。  それから、そっと僕の耳元で囁く。 「今夜の十時からの『トーク・アクター』って番組、観てくれたら嬉しいな……」 「え?」 「ごちそうさま、です」  そう言い残して、金髪さんはカフェを出ていってしまった。   「え? 番組? え……?」  ぽつんと残された僕は、耳元で囁かれた言葉の意味が分からず、ひとり首を傾げていた。
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