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大学が終わってアパートに帰る前にコンビニに寄ったら、松尾さんが表紙の雑誌を見つけてしまった。
どうしよう、明日くらいに別の雑誌が届くし……でも。
「ありがとうございましたー」
コンビニの店員さんの目を気にしながら、僕はおにぎりと一緒にその雑誌を買った。これは女性誌じゃなくって、いろんな映画の特集が載ってるやつ。だから、めちゃくちゃ恥ずかしいわけではなかったけど緊張はした。早く、読みたいな……!
スキップしそうな心で僕は帰路につく。そんな時、いつも通る大きな古い民家の前に人影があるのに気がついた。その家には似合わない、今風の若者が……って、あれ? あの人……!
僕は駆け足でそちらに向かった。
「あ、あの!」
「……ん?」
僕の声に振り返ったその人は、松尾さんその人だった。
まさか、こんなところで会えるなんて……!
僕の心は踊った!
「僕、カフェの店員です! レモンの!」
「……声、大きい」
そう言って松尾さんは僕の手を掴んで、ぐいっと自分の方に寄せた。
そして、家のドアを開けて僕をぎゅっと中に押し込む。突然のことに、僕は混乱する。
「え!? 何!?」
「静かに、ね」
続けて松尾さんが中に入って、ドアの鍵をがちゃりとかけた。
それから、靴を脱いで室内に入っていく。
「君も……海君も入っておいでよ。お茶くらいしか無いけど」
「え? あ、はい!」
反射的に僕は返事をして、もたもたしながら靴を脱いだ。
そして廊下を進む間に、頭が冷静になってくる。
あれ? ここは松尾さんのお家? 僕、芸能人の家に上がってるの!?
「あ……」
「海君、こっち。居間」
「は、はい……」
これ、どういう状況なんだろう。
なんだか心臓がばくばくして痛い。
僕はくらくらする頭で、松尾さんが呼んだ方向の居間まで向かった。
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