画面の中の彼

2/6
前へ
/27ページ
次へ
 大学が終わってアパートに帰る前にコンビニに寄ったら、松尾さんが表紙の雑誌を見つけてしまった。  どうしよう、明日くらいに別の雑誌が届くし……でも。 「ありがとうございましたー」  コンビニの店員さんの目を気にしながら、僕はおにぎりと一緒にその雑誌を買った。これは女性誌じゃなくって、いろんな映画の特集が載ってるやつ。だから、めちゃくちゃ恥ずかしいわけではなかったけど緊張はした。早く、読みたいな……!  スキップしそうな心で僕は帰路につく。そんな時、いつも通る大きな古い民家の前に人影があるのに気がついた。その家には似合わない、今風の若者が……って、あれ? あの人……!  僕は駆け足でそちらに向かった。 「あ、あの!」 「……ん?」  僕の声に振り返ったその人は、松尾さんその人だった。  まさか、こんなところで会えるなんて……!  僕の心は踊った! 「僕、カフェの店員です! レモンの!」 「……声、大きい」  そう言って松尾さんは僕の手を掴んで、ぐいっと自分の方に寄せた。  そして、家のドアを開けて僕をぎゅっと中に押し込む。突然のことに、僕は混乱する。 「え!? 何!?」 「静かに、ね」  続けて松尾さんが中に入って、ドアの鍵をがちゃりとかけた。  それから、靴を脱いで室内に入っていく。 「君も……海君も入っておいでよ。お茶くらいしか無いけど」 「え? あ、はい!」  反射的に僕は返事をして、もたもたしながら靴を脱いだ。  そして廊下を進む間に、頭が冷静になってくる。  あれ? ここは松尾さんのお家? 僕、芸能人の家に上がってるの!? 「あ……」 「海君、こっち。居間」 「は、はい……」  これ、どういう状況なんだろう。  なんだか心臓がばくばくして痛い。  僕はくらくらする頭で、松尾さんが呼んだ方向の居間まで向かった。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加