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「ババア、お前、魔女だろ、街の奴らが言ってたぞ」
質問には答えず、ピクシーは挑発的に血の混じった唾を吐いた。
魔女。それは人々がマージに与えた呼び名で、この少年がピクシーと呼ばれるのと同じ、軽蔑と恐れに根差している。
「だったら何だい」
「見りゃわかるだろ。魔法で俺を治せ。さもなくば」
さもなくば、何だというのだろう。
虚勢を張るピクシーにマージは憐れみの目を向けた。
マージは魔女などではない。薬草の知識に長けていたのを魔女だと貶められ、恐怖にかられた人々に街から追いやられただけである。
追い出しておきながら、自分が困るとこっそり訪ねて薬をもらって行く人が後を絶たないのには噴飯物だが、この少年はそんな人々の口端にのぼる自分の無責任な噂を信じているらしい。
「生憎、私は魔女じゃない。ただの薬屋だ」
口の悪さはともかく、助けてほしいという思いは切実だろうと多少は同情しつつ、マージは淡々と事実を述べた。「何だと?」と言うピクシーの顔はあからさまに落胆するが、それ以上の泣き言はない。
育ちの悪さに曲げられたせいでピクシーなんて汚名をきせられたが、本当は実直な少年なのかもしれないとマージは思う。
「わかってるだろうが、あんたの傷は命取りだ。それを治せる薬はない。諦めな」
「クソが」
震える手でピクシーが砂を掴んだ。
投げつけられるかと身構えたマージだったが、少年の腕は力無く地面に押し付けられたままだ。
「痛み止めならやるよ。死への運命は変えられないが、気休めにはなる。その代わり、街で何があったか教えろ。あの大火事はなんだ」
「あれは、」
ピクシーが口を歪める。
「あれは俺がやった。もう全部よくなったから」
「よくなった?」
マージが眉を顰めた。少年はそれには気づかず、ぐったりと下を向いたまま苦しそうに啜り泣きはじめる。
「ちくしょう、ジュリア、ちくしょう」
「ジュリアって、領主の娘のかい?」
尋ねたマージに少年は泣きながら頷いた。
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