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自分の体に、我が子が存在する。
初めて味わうこの何とも言い表せない感覚に、どうして良いのか分からない。
妊婦用雑誌などをぬか喜びを避ける為に手に取らず、当時はネットなどの気軽な媒体もなく知識に乏しい状態だった。
ふわふわとする足に力を入れて駅に向かい快速電車に揺られて帰って来た小春は、そのまま家には戻らず思い出の地に赴いていた。
そこは盛大な琵琶湖が一望出来る砂浜。桜の木花や野花が多数咲いており、丁度見頃だった。
雲一つない透き通った青空。太陽の反射により美しく輝いている、大きな湖。そして、それらを華やかに彩る桜の花びらに多数の野花。
あまりの美しさに、一人涙を流す。
この桜が舞い散る景色は玉砕を告げるものではなく祝福だったと小春は気付き、より涙が溢れてくる。
──この美しい景色を、一生忘れることはないだろう。我が子が生まれてきてくれたら、それほど嬉しかったのだと伝えよう。
そう心に決めた、小春は思う。
──あの人は、どんな反応するのかな?
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