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「あなた、まだわきまえていないの!?」
「えーと、なにを?」
昨日、グレンにこれ以上ないぐらい冷たくあしらわれたはずのロベリア嬢が再び現れて、ジャスミンは唖然とする。高位貴族令嬢はめげないらしい。つよい。
本日は夕刻から舞踏会が開かれる。王太子が公に婚約者を連れて出席するはじめての催しだ。
臥せっていた王女が少しだけ顔を出すらしく、多くの貴族が出席するだろうと目されている。さながら婚約者探しの勝負どころといったところか。
目の前のロベリアも、まだ昼前だというのに華美な装いで非常にキラキラしい。頭の花は赤く染まっており、かなりお怒りのようだった。できればかかわりたくないなあと思うのだが、行き先を遮るように立ちはだかっているので、無視もできない。
「言っておくけれど、グレン様はわたくしをエスコートしてくださることが決まっておりますの。邪魔はなさらないでくださいな。あら、そういえばあなたはそもそも貴族ではないのですから、舞踏会に出るわけないわね」
言うだけ言って、クスクスと笑っている。時折ちらりとくれる一瞥は過分に蔑みを含んでおり、なんとまあ分かりやすい嫌味だなあと逆に感心してしまう。天晴だ。
「王太子殿下の婚約者探しが公布されるまえ、わたくしの婚約者はグレン様でしたのよ。国内が荒れていたこともあり、お話は進まなかったようですが。ようやくかと思っていた矢先に、王太子殿下のことがありました。侯爵家として立場というものがございますので、わたくしとグレン様のご婚約も諦めざるを得なかったのですわ」
ふうとため息をつき扇で口元を隠したので、どんな動きをしているのかはわからないが、目はとても得意げだったので、さぞ満足げな笑みを浮かべているのだろうと推測できた。
ふむとジャスミンも息をつく。カノーヴァ侯爵家との縁談については聞いたことがある。
ロベリアが言った「国内の荒れ」とは犯罪組織が跋扈していたことで、ジャスミンが怪我を負うことになった事件をさしている。一般の民を巻き込み、親子が被害にあった。幼い子どもだけが残され、大きな怪我を負った痛ましい事件は王宮でも話題となり、騎士隊を率いていたカルスも責任が問われた。王家筋の公爵家といえど非難は免れなかったらしい。
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