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しかしながら落ち着かない。
おかしいと思いつつ鉢を持ち続けてきたが、いざ無くなってしまうと妙に手持無沙汰というか、有体に言えば不安になった。
(わたし、じつはすごく病んでいたのでは?)
心理療法のひとつに、箱庭療法というものがあると書物で読んだ。己の心象が現れるというアレとは少々異なりそうだが、周囲のひとたちから少しずつ花を――こころを分けてもらい、それを己の器に移していく作業は、ジャスミンにとっての箱庭だったのかもしれない。
だってジャスミンの頭上には何も生えていないから。
生まれたばかりの赤ちゃん、騎士隊が捕らえた犯罪者、どんなひとの頭にも見える草花は、どれだけ鏡を覗いてみても、ジャスミンには存在しなかった。からっぽだった。雑草ひとつ存在しない。
他人の花を世話することで、足りない自分のこころを埋めていたのかもしれない。
連行された部屋は豪華な一室で、今度はガリエ公爵家の侍女長が待ち構えていた。公爵夫人の姿を探すジャスミンの身体から服を容赦なく剥ぎ取ると、手渡した夜会用のドレスに袖を通すよう厳命された。
なんだろう、これは。奥様のお供として参加するのだろうか。
いつか一緒に参加したいわあと言っていたから、可能性はゼロではない。あつらえたようにピッタリのドレスから考えても、前々から計画されていたことが推測された。
着付けられ、メイクを施され。侍女長の頭頂部では好奇の色に染まった花が跳ねている。じつに楽しそうだった。
王宮の侍女長は気風のいいおかんだが、こちらは世話好きのおかんだ。
「よくお似合いですよ。坊ちゃまもなかなかのセンスでございますねえ」
「グレン?」
このドレスをセレクトしたのがグレンだというのだろうか。
首元まで覆うタイプで露出は少なく、ジャスミンの身体に残っている傷が隠れるようにデザインされている。仕上げとばかりにつけられたイヤリングを彩る宝石はアメジストで、それはグレンの頭でいつも揺れている花を彷彿とさせて顔が赤くなる。
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