鉢植え娘の恋人

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 タイミングよくノックの音が響き、侍女長が扉へ向かう。二言三言、小さく会話をしたのち、入室してきたのはグレンだった。見慣れた隊服とは違うそれはいかにも貴族然としたもので、ジャスミンは思わず見惚れてしまう。  対するグレンはといえば唇を引き結び、睨みつけるような眼差しを向けてくる。  頭上の花は点滅するように色を変えており、いつになく緊張しているようだった。  この色変遷は見たことがある。あのときは、その、つまり、はじめてキスをしたときだ。  いつのまにか侍女長は姿を消しており、部屋にはふたりだけとなっていた。  ジャスミンにも緊張が走る。  くちの中が渇いて声もままならない。 「ジャスミン」 「なにかな!」 「なぜ怒鳴る」 「ごめん、わたし緊張してるみたい」 「そうか。俺もだ」 「みたいだね」  顔を見合わせて、ようやく笑みが漏れる。肩のちからも抜けて、誘導されるままにソファーに腰かけた。準備されていた紅茶はすっかり冷めてしまっていたけれど、ふたりしてごくりと飲み干した。乾いた喉にはちょうどよかった。 「これ、グレンが用意したの?」  ドレスを摘まんで問いかけると、頷きが返る。 「誕生日だろう? 十八歳おめでとう。この日のためにみんなで準備していた」 「あ、忘れてた」 「……おまえ、俺がどれだけ」 「ごめんごめん。でもどうしたの? いつもはこんなかしこまったプレゼントなんてしないのに」 「十八だからな」  ドレス以外にも、邸にはプレゼントが用意されているらしい。  貴族令嬢は早ければ十五歳ほどでデビューするが、ジャスミンはそうではない。市井でも十八歳の誕生日は特別な扱いをするのが習わしで、両親を亡くしているジャスミンに、ガリエ公爵家の面々が考えてくれたようだ。 「それからこれは、国王から」 「は? ちょっと規模が大きすぎて理解できない」 「王女を救った礼だと言っていたぞ」 「いやいや、そんな親戚のおじさんが言ってたよ的なノリで言われても」 「親戚だ」 「そうでしたね」  忘れていたが、グレンは王族の血を引いているのだ。  冷酷だの残忍だの悪魔だのムッツリスケベだの、騎士隊では愛のあるいじりをされているので忘れていた。ジャスミンの好きなひとは、とんでもなく身分の高いひとだった。
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