11 毒の名

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11 毒の名

 11 毒の名    抱き上げられたまま連れ込まれるのは森の中を通る小道だ。幼い頃は良く探検と称して二人で良く歩いた場所で、奥まった所にある大きな木にはツリーハウスが設られている。幼い頃はそのツリーハウスに色々な物を持ち込んでは二人で過ごしたものだ。  まさかそんな所でするつもりなのかと密かに慌てた。幼い日の大切な思い出を汚してしまうような気がする。 「フィン、どこに行くつもりなんだ?」  声を掛けても性急な様子で歩くオルテガは答えない。というか、まだ朝っぱらだし外なんだが……!!  まさかこのまま外でするのか? と想像して背筋が震える。青姦というやつか!?  動揺やら羞恥やら微かな期待やらで一人百面相していると急にオルテガが立ち止まった。どうするつもりなのかとオルテガを見上げれば、少し迷っているようだ。  よし、そのまま思い止まれ! という俺の祈りも虚しく、オルテガは森の小径を外れて木立の中へと入っていく。どうやらツリーハウスの方へ行くのかどうか悩んでいたらしい。そのまま行ってたらマジで絶交コースだったぞ、お前。いや、森に分け入って行くこの状況を是と言うわけじゃないけれど!  少し奥まで行くとやっとオルテガが俺を降ろした。そのまま擦り抜けて逃げようとしたが、太い木の幹に腕をつかれて閉じ込められる。これがいわゆる壁ドンというやつか。  なんだか悔しくて睨み上げるが、オルテガは余裕そうな笑みを浮かべるばかりだ。こんな時でも絵になるのが腹立つ。 「リア」  最中に出す甘い声が先を強請る。同時に顎を取られて深いキスをされた。呼吸すら奪うようなキスは嫌いじゃない。嫌いじゃないんだが、頼むから時と場所を考えてくれ。  抵抗しようとオルテガの胸を押すが、びくともしなかった。どころか、咎めるように膝が俺の足の間に割り入ってきて軽く股間を刺激される。  そして、気が付かされてしまう。俺もこの状況に興奮しているのだと。  兆している自分にカッと顔が熱くなる。更にオルテガの攻勢は容赦がなく、キスをしながらシャツの中に熱い手が滑り込んできて腰をなぞられた。腰の辺りが弱い俺はそれだけで背筋にぞわぞわとしたものが這い上がってくる。オルテガも腰が弱い事を知っているからわざとやっているんだろう。 「は……っ」  長いキスが終わる頃には抵抗する気力も逃げる気力も失せていた。酸欠でぐったりしているうちに木に背中を預ける形で器用にズボンがずらされ、大きな手が尻を撫でていく。普段よりも性急な様子に戸惑いながら俺自身も確かに興奮していた。野外でことに及ぶなんて特殊性癖を持つ人間がする事だと思っていたのに。  こんな所で、と抗う理性と先の快楽を望む本能とで板挟みになっている俺の前にオルテガが指を差し出してくる。彼が望む事に気が付いて恐る恐る差し出された指を口に含んだ。くちゅ、と水音がする中、長い指を咥えて舌を這わせる。 「ん……ふ……」  指が口の中でバラバラに動かされ、上顎を擦られて思わず声が漏れる。ゾクゾクと背筋が震える中、フェラするようにオルテガの指に舌を這わせて時折軽く甘噛みをした。口の端からは飲みきれなかった唾液が溢れ落ちていく。 「は……いやらしいな、リア」  耳元で囁かれてゾクゾクする。心臓が早くて呼吸も速くなる。ダメだ、外なのに……。  不意にずるりと口の中から指が引き抜かれる。口の中を蹂躙していた熱が失せ、指先に繋がっていた銀糸が切れるのを働かない頭でぼんやり見ているうちに俺の唾液で濡れた手が俺の尻の方へと伸ばされた。  いつの間にか下着も全て下げられて露わになっていた尻に熱い手が触れてびくりと体が震える。その手は容赦なく尻の割れ目をなぞり、奥にある後孔に触れた。  毎晩抱かれているから、ここで得られる快楽を俺の体は知っている。理性と裏腹に先を望む体は既に抵抗出来なくなりつつあった。  右足を抱えられ、俺の唾液に濡れたオルテガの指が侵入してくる。 「ん……く……」  「まだ柔らかいな」  くに、とナカに侵入した指が曲げられて思わず体が跳ねる。殆ど前戯無しなのに、あっさりと指を受け入れる自分の体に驚きしかない。同時にそれ程オルテガによって染められているのだと思い知らされた。  木とオルテガに支えられているとはいえ、片足立ちという体勢が不安でオルテガにしがみつくしか出来ない俺は小さく息を零す。腹の奥が熱くて疼いている。目の前に居る男が欲しくてほしくて堪らない、と。  奥にまで侵入した指がバラバラに動かされる度に良いところを掠めて声が漏れる。ぎゅうとオルテガにしがみつきながら快楽に喘ぐ姿は傍から見ればまるで獣のようだろう。  男同士で盛り合っているのはまさに獣の所業だ。それでも、火のついた体は止められない。  必死に声を殺そうと自分の服に噛み付いていれば、視界の端でオルテガが不満そうな顔をしていた。既に止められない所に来ても、残った理性に命じられるまま往生際悪く俺は抗う。  俺達の関係は既に使用人達の間では暗黙の了解となっているだろう。だが、直接見られるのはまた話が違ってくる。こんな早朝に何もない森に誰か来るのかと言われれば来ないだろうけれど、それでも万が一という事がある。  そんな俺に焦れたのか、オルテガがナカから指を引き抜く。  ずるりと指が抜けて行く感触と共に腹の奥から何か溢れる感覚に慌てて尻に力を入れるが、間に合わずに何かが溢れて後孔から滴り落ちる感触がした。零れ落ちていくものの正体はわからないが、排泄感に嫌悪を覚えながら必死でオルテガにしがみつく。 「まだ腹の奥に残っていたみたいだな」  耳元で低い声が囁き、見れば目の前には白濁を纏った長い指。その白濁と先程の排泄感の正体に気が付いてカッと顔が熱くなる。 「最悪……! 見せるな」 「何故? 俺達が繋がった証拠だろう」 「っ……!!」  叱ろうとするが、それより先にナカにオルテガが押し入って来た。いつもは馬鹿丁寧に慣らされるから少しばかりきついが、痛みもない。  大きく張り出したカリがナカを押し広げながら侵入してくるのと同時に内臓を押し上げられるような感覚が気持ち悪くて抱き着いた背に爪を立てる。間にシャツがあるとはいえ、肉に爪が食い込む感触がした。 「リア」 「っ……あっ!」  オルテガの声が俺を呼ぶ。同時に首筋に軽く噛み付かれて思わず悲鳴が漏れた。そんな俺の様子を楽しむようにオルテガは笑みを浮かべ、ゆっくりと律動を始める。  レヴォネ家の敷地とはいえ、誰かが通り掛かるかもしれない。その事が気になって唇を噛んで声を必死で殺す。オルテガはそんな俺が気に入らないらしく、絶妙に良い所を外してくる。  残されたままだった白濁を潤滑油代わりにして腹の中にオルテガが馴染み、挿入の違和感がなくなれば、じわじわとした責めは焦れるだけだ。なんとか良いところに当たるように調節したいのに、オルテガにしっかり抑え込まれてはそれも難しい。 「意地の悪い……っ」 「声を抑えるお前が悪い」 「外だぞ!? 誰かに見られたらっ!」 「ここには誰も来ない。それに……覗き見する奴がいるなら見せつけてやる。お前が、誰のものなのか」  耳元で囁かれた独占欲丸出しの台詞にカーッと顔が熱くなる。こんな状況なのにその言葉が嬉しいなんて俺もどうかしている。 「ああもう!」  惚れた弱みというのは恐ろしい。そう思いながら胸倉を掴んでオルテガの顔を引き寄せた。 「見られたら責任を取れ」 「喜んで」  喜色を滲ませた声でそう言うと、オルテガが俺の額にキスをする。くそ、そんな嬉しそうな顔をするんじゃない! 快楽と羞恥で頭が沸騰しそうだ。  俺の了承を得たオルテガの動きが本格的になり、突き上げられる度に悲鳴じみた嬌声が勝手に零れた。熱い体に縋り付いてもっともっとと強請る俺はさぞ浅ましい事だろう。  早朝の森の、爽やかな空気に似つかわしくない声と水音が小鳥の囀りの合間にこだまする。抑えようと思っても勝手に零れる声はもう俺の言う事なんて聞かなかった。 「フィン……っ」  自分のものとは思えない甘い声がオルテガを呼ぶ。その声に気を良くしたのか、オルテガが笑みを浮かべて俺の唇に貪りついてくる。  呼吸も嬌声も呑み尽くすキスは気持ちが良い。快楽と酸欠とで碌に回らない頭が求めるのはただ目の前で自分を貪る男だけだ。  生理的に零れる涙も、顎を濡らす唾液を拭う事も出来ず、振り乱した髪もぐちゃぐちゃになっている。乱れるしか出来ない俺を見て、オルテガは嬉しそうに笑む。  熱くて頭が溶けてしまいそうだ。このまま二人で混ざり合えたらどれ程良いだろう。そんな詮無い事を考えてしまう。  まだやらなきゃいけない事が沢山ある。直近のスレシンジャー公爵家の来訪も、その先にある計画の下準備も。  こんな風に溺れている場合ではないのに、既に俺の体は覚えてしまった。オルテガの熱の心地良さを、体を暴かれ穿たれる悦楽を。  これは毒だ。せめて事が成るまでは口にするべきではなかったのだと後悔してももう遅い。  俺が国や王家にとって毒であるように、オルテガは俺にとっての毒だった。  今更そう気が付いても、細胞の一つひとつまでオルテガを刻まれ、逃れる事はもう出来ない。麻薬のように依存し、身も心も溺れていく。そうして行き着く先はどこなのだろうか。  不意にオルテガの手が俺の頬を撫でる。息も絶え絶えに視線だけ動かしてオルテガを見れば、険しい顔をしていた。 「考え事なんて随分余裕だな」 「ぅあ……っ!!」  責めるような口調でそう言われ、それまで体重を支えていた左足をも抱えられる。突然浮いた体に驚いて慌ててオルテガの首にしがみつけば、体重が掛かり挿入が一気に深くなって悲鳴が零れた。 「リア、もっと俺に溺れてくれ。……俺はお前のものだ」  オルテガの言葉に胸のうちに仄暗い悦びが湧き上がる。この男が、俺のもの。  嗚呼、自然と浮かぶ笑みは歪んでいなかっただろうか。自分からオルテガの唇に噛み付いて先を強請った。同時にごちゅ、と奥まで穿たれて脳髄まで痺れるような快感が襲ってくる。 「あっ……んんっ!!」  声を挙げてオルテガの体に縋り付いて快楽を貪る。昂ぶる体に急かされるまま、オルテガを締め付け、種を強請った。孕む事がないこの身だが、腹の奥に注いで欲しい。 「フィンっ……中、中に欲しい……!」  目の前にあった耳介に齧り付きながら半ば叫ぶように言えば、オルテガが息を詰めた。 「くそ、あんまり煽るな……っ」 「ああっ」  律動が一段と激しくなり、奥が抉られる。腹のナカの好い所を刺激され、迫る絶頂に体がガクガクと震えた。 「も、イク……!」 「っ……!」 「あ、あぁっ!!」  一際深く貫かれ、視界に星が散る。強烈な波に襲われて体が大きく痙攣する中、腹の奥に熱いものが注がれるのを感じて幸せな気分になった。ここにオルテガの種が在る、と全身が喜んでいるようだ。  注ぎきるように数回律動をしつつオルテガが深く息を吐くのを聴きながら、俺は絶頂の余韻に浸っていた。疲労感と多幸感にぽやぽやと思考が浮つく。いつも以上に気持ち良かったと熱い体に縋り付きながら思う。……俺も変態の仲間入りか。 「降ろすぞ」  オルテガが囁くと同時にずるりと熱が引き抜かれ、重力に従って白濁が溢れていった。引き抜かれる感覚に再びゾクリとしながらも白濁が溢れる感触が少し気持ち悪い。  オルテガにそっと降ろされるが、立とうとした途端にがくりと膝が折れて体勢が崩れた。慌ててオルテガが支えてくれたおかげで転ばずに済んだが、体に力が入らない。多少の痛みは覚悟していたが、まさか立てないのは予想外だった。 「あー……その、すまない」  体を支えられながら申し訳なさそうに呟く声を聞いて、ようやく少し冷静になってきた。湧き上がる感情のまま、少々涙目でギッと夕焼け色の瞳を睨み付ける。やる事があると言ったのに。乗った俺も同罪だが、いくらなんでもヤリすぎだ。 「……今日はこき使ってやるから覚悟しろ」 「承知した」  羞恥やら屈辱感やらに襲われながら思わず呟いた恨み節にオルテガは苦笑しつつも了承した。
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