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vs.利休
「やあ、利休さん。三年ぶりじゃ。今年は生誕五百年かのう。今宵はご苦労さん」
和尚が茶の準備に忙しい御仁に声をかける。
「ああ、和尚様。お久し振りでございます。はい、はい、御蔭様で。此度は時が空きましたゆえ、御寺の山門もいつにも増して浄めました。己の失脚に繋がった自身の立像が傍らでの仕事は手加減できず何とも複雑な心境です。ところで、この所此方では流行り病やら戦やらで一大事ですな」
「うーむ、なにやら三密(密閉・密集・密接)避けよと騒がしい。儂らの世界では、三密は密教の身・口・意の三業。避けたら人らしくないわ。何はともあれ、儂はここで味わう茶が何より楽しみ。じゃが一度ならず二度までの中止は先の大戦以来よ。八坂の社も七月には疫病退散を祈願し山鉾巡行を催行。儂も自粛を再考。自粛を自粛じゃ。アハハハ」
見かけによらず何とも軽い。
「とは言え、皆が日取りを覚えておるか少し心配じゃ」真顔に戻る。
「和尚様、それには及びません。盆の月の一九日。頓智のお好きな貴方様のお名前そのもの。我等が出番はもちろん草木も眠る丑三つ時」
利休は御寺の第四十七世住職、一休宗純へ微笑み返した。
大いに気を良くした和尚。これ見よがしに辺りを見回す。
「さて、舞を演ずる何時もの『出雲阿国』さんは、奥におるかな?フフフフ」
利休、已む無く苦笑い。
「あぁ、阿国様なら同じ塔頭の細川様と先程下の石舞台に降りて行かれました。二年の空きゆえ稽古だそうです」
和尚、チョット間を取り思案顔。
「では儂も」
近くのゆるやかな坂道へ向かうと見るや否やくるりと踵を返した。
「おや、和尚様どちらへ?」
「うむ、建勲の社から景色を愛でつつ散歩じゃ」
何故か胸張りよーいドンの姿勢。
「それっ、一、二の、さぁんぽ!」
固まる利休。開いた口が塞がらない。
和尚、利休を見つめもう一度。
「一、二の、さぁんぽ!」
その目は褒美を欲しがる仔犬のようだ。
無視する利休。目は決して合わせない。
諦め悪い和尚。上目遣いで利休に擦り寄る。
「一、二の、さぁんぽ!」
これには利休もさすがにキレた。
「和尚様、我等の足は見えませんっ!!」
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