1人が本棚に入れています
本棚に追加
vs.遠州
先程から熱心に何かを思案しながらに絵図に墨を入れている御仁がいる。
「そこの辛そうな面構えのお方、どなたじゃ?」
「ああ、儂か?和尚、遠州じゃ」粋人風の御仁。
「遠州殿か。何をそんなに熱心に描かれておる?何かの演習か?」
遠州、遠くを見つめ溜息漏らす。
「このところの世の騒ぎが心苦しゅうてな。自然を活かし、皆が心休まる新しい造作の庵とその庭を思案しておる。しかし、庭に借景取り込みたくとも景色が往時と様変わり。残念じゃ。夏も儂らの時代に比べて一層暑い。病に加え、海の向こうの異国では戦まで始まった。民はもとより、値千金の屋敷まで失くし儂は本当に哀しい」
戦国時代大名だったが名園を数多く作庭、その茶の心得は綺麗寂びとも言われる小堀遠州が心底嘆いた。崇高な精神、真摯な言葉がずしりと重い。
和尚、眉間に皺寄せ暫し黙考。
「儂の時代も応仁の乱で人が鬼の乱のごとく振る舞い、寺はもとより京の都が凶徒となった。人とはこの先も愚かでおろぅか...」
こちらも鎮痛かつ溜息交じりに呟く。
だが、あまりに浅く軽い。
再び遠くを見つめる遠州。
黙して語らず・・・
最初のコメントを投稿しよう!