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譲治の回想〜⑴
俺の家は雑貨屋をしていたが、近所のクリーニング屋さんから頼まれて、衣類の集配もやっていた。まあまあいい小遣い稼ぎになるので、どんなに忙しくとも俺は、毎日せっせと自転車漕いで配達していた。
いつものように駆けずり回っていた日のこと。立派な建物のガラス扉が目に入った。真鍮のドアノブや枠は磨き上げられ、俺は自転車にまたがったまま、しばらく眺めていた。
(こんな店、持ちてぇなあ)
ふと、そんなことを思った。
扉が開いて、背の高い綺麗な女の子が現れた。長い黒髪を一つに束ね、緑色のワンピースを着た女の子は本当に綺麗だった。
俺は、今度はそちらに釘付けになった。
女の子は俺に気づき、恥ずかしそうに俯いた。
失礼なことをしていたのに気付いた俺は、慌てて鳥打帽に手をやり、軽く頭を下げるポーズを取った。それから自転車を漕いで、急いでその場を離れた。
でも、彼女のことが気になって仕方なくて、後ろを振り向いてしまった。
すると彼女も、俺を見送ってくれているかのように佇んでいて、ペコっとお辞儀してくれたのだ!
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