嗄れる夏

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 * * *  あつあつのフライパンに、玉子をじゅわり。黄味がぷるりと弾む。  目玉焼きをのっけた食べ物は、平和の象徴。みーちゃんがそう教えてくれた。みーちゃんはなんでも知っている。みーちゃんが知らないことは、きっと世界中のみんなも知らないことなんだと思う。 「ただいま、あーちゃん」 「おかえりなさい、みーちゃん」  朝、家をでたときよりも少しくたびれた顔に、てっぺんがぺたんこになった髪の毛。これはみーちゃんが外でお仕事をがんばってきたしるし。「化粧がすぐによれて、髪も肌もぺたぺたしてみっともなくなる」のが、みーちゃんの夏の悩みらしい。  いつもきれいにお化粧して、いつもきちんとした格好をするみーちゃんは、大人の女の人だと思う。お化粧だって、みーちゃんが気にするほどみっともなくはないし、そもそもみーちゃんはいつもきれいだ。お仕事用のメイクをしたキリッとした顔には惚れ惚れするし、お化粧を落としたゆで卵みたいにつるんとした顔には、なんだかほっとする。 「夕飯、ハンバーグつくってくれたの?」  みーちゃんはフライパンを覗き込んで、大きな目をきらきらさせた。
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