嗄れる夏

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「あーちゃん、あとでケーキ食べよう」 「ケーキ?」 「チョコのやつと苺がのったやつ買ってきたから、あーちゃんが好きなほうを選んでいいよ」 「やったあ」  とガッツポーズした瞬間、心臓がびくんと大きく跳ねた。  ドン、ドン、ドン……と低い音が部屋じゅうに鳴り響いて、壁が揺れる。 「また隣の人かあ……」  みーちゃんがため息まじりに言った。  隣の部屋からは、こわい音がする。ドンドンバンバン。身体じゅうの怒りを込めた、すべてを壊す音。  この音は、よく知ってる。 「あーちゃん、平気?」 「え? うん……。平気だよ」 「この音、今日はどれくらいで終わるかな」  長いときは一時間。短いときは五分。わあわあ叫んでる声や、魔女みたいな笑い声がうっすら聞こえるときもある。  みーちゃんは「人といっしょに暮らしてたら、喧嘩する日だってあるからね」と言う。それならいつか、私とみーちゃんも喧嘩する日がくるだろうか? 不安に思っていると、みーちゃんは「私とあーちゃんはだいじょうぶ」と言ってくれた。みーちゃんは心を読むのがとてもうまい。
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