0人が本棚に入れています
本棚に追加
あれから、しばらく女の子の姿は見られなくなったけれど、私はずっと気になっていた。一度、話をしてみたい…。その気持ちを持ちながら、今日も開店の準備をする。
降り注ぐ春の暖かい日差し、ある程度の準備を終えたところで、道の向こうに彼女を見つけた。急いで玄関口に行き、決して真意を悟られないよう平静を装い、彼女を手招く。
彼女は一瞬、躊躇した様子だったが、今日は逃げずに小料理屋の表まで足を運んでくれた。
「来てくれて、ありがとう。私は、こちらで小料理屋をしてます、涼音です。どうぞ、中へ入って」
「中へ入ってもいいんですか?まだ開店前…」
「今日は、特別。あなたが嫌でなければ、少しばかりお食事を召し上がって下さい」
思っていたよりも、近くで見れば見るほど可愛く、ニキビどころか毛穴すら見えない透き通った白い肌にため息が出そうになる。そして彼女の纏う空気感がどこか上品さを漂わせ、今時の子にしてみても、物腰が柔らかく感じる。
開店前の玄関口を通り、彼女をカウンターの席へ座らせる。私は、お味噌汁を温め、その間に小さめのおにぎりを2個お皿へ置き、横にしそ昆布と沢庵を添える。
「余り食べると、夕飯が入らなくなったら困るから、このくらいで如何かしら」
「ありがとうございます」
お礼を言う彼女の表情は、とても嬉しそうだった。しっかりと手のひらを前で合わせ「いただきます」と挨拶をした後、ひと口お味噌汁を啜った。
すると、彼女の目からすーっと一筋、涙が流れた。
最初のコメントを投稿しよう!