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【雪菜side】
数分前一一一一一一。
「雪菜、ちょっと待って」
「………」
「お願い、話させて」
廊下を一目散に歩いていくと、後ろから零に腕を掴まれた。
零のクラスの前で止まると、中には誰もいないのが見える。
「……話ならもうしたでしょ」
「鞄取ってくるから、待ってて。分かってくれるまで話すから」
「……零、」
零は、改めて私と別れたいと言った。
今まで別れ話は何回もされてきた。零はお兄ちゃんを好きだったから…それにつけ込んでしまった私が悪いのは分かってる。
分かってるけど…好きだから手離したくなかった。
だから、今まで何度別れ話をされても、お兄ちゃんにバラすよなんて脅しのようなことをしてでも繋ぎ止めてきたけど…
今回は違う。
もう零の気持ちは揺るがないんだって分かる。
だけど…。
ガラガラガラ
「……え?なにこれ、鞄が落ちて……」
「零…?どうしたの」
教室に入った零は、床に落ちている誰かのスクールバッグを見つけてしゃがみこんだ。
「なんでこんな中身が散乱して……」
「……誰かが落としたんじゃないの」
「でも……え、」
「なに?」
「これ……風音くんの鞄だ」
鞄から飛び出た教科書や文房具を見て、目を見開く零。
風音くん……。
最近よく話すようになった零の友達の男の子。優しくて素直でいい子。ただの友達だと思ってたのに…
零は、その子を本気で好きになったと言った。
お兄ちゃんへも、気持ちを伝えて過去にしてきた、今は大事にしたくて一緒にいたい人がいる。だから別れてほしい…そう言ってきた。
風音くんの何がそうさせたの?なんで私じゃできなかったの…?
「……っ」
「ちょっと零!どこ行くの!?」
「いや、なんかおかしい…!どこか行っただけなら鞄があんな落ち方しないはずだし…電話しても繋がらない!」
教室を飛び出した零に釣られるように、後ろを走って追いかける。
そんな血相変えて…なんで?なんでそんなに風音くんがいいの?
私は、小さい頃からずっと一緒にいたのに…好きになってもらえなかったのに。
いや…あんな繋ぎ止め方しかできなかった私が、零を余計に苦しめた私が好きになってもらえるはずなかった。
頭では分かってるのに…どうしても認めたくなくて。
「……!!えっ」
廊下を少し走った所で、突然零は立ち止まった。
「…っはぁはぁ、どうしたの?」
「今この中から、何か倒れる音がした…」
「ここ…?これ古い備品室だし、もう使ってないと思うけど…」
「でも……あ、」
零は備品室の扉に手をかけると、何かに気付いたように顔を上げた。そして鍵がかかってるのか、固く閉まっていた引き戸を力任せに思い切りこじ開けた。
バンッッ!!!
「きゃっ…!!零…!」
バキンッと鍵が壊れたような音と共に、扉が一気にけたたましく開いて…
なぜか中にいた男子達に、迷いなく突っ込んでいく。
「は?何お前……」
「あ?んだよ……っっ!?」
私は、口を抑えてその様子を見てるしかできなかった。
だって…あんな怖い顔をした零を初めて見たから。
「ぐっ……っ」
金髪の男子の首を思い切り掴むと、零はそのままギリギリと腕の血管が浮き出るほど締め上げる。
「……あ、れ、れい、」
状況が分からなくて、ただ怖くて…入り口で震えていたら、奥の方から聞いたことのある声が聞こえてきた。
「……え、くさか、べ?」
視線を移すと、そこには頬を赤くして制服と髪が乱れた風音くんがいた。
そうか…零はここに風音くんがいるって気付いて…。
この男子達が何をしたかったのかは分からないけど、風音くんの姿を見たら、こいつらに何か暴力を受けたんだってことは分かる。
零は…きっと、すごく怒ってる。
幼なじみの私でさえ…零のこんな姿見たことない。
周りの男子も…あんなに威勢がよさそうだったのに、すごい形相で男子の首を締める零を見て、唾を飲んで動けずにいる。
「……お前ら、風音君に何してるの?」
低くて重い、怒りに震えた零の声が響く。
いつもの穏やかで、落ち着いた零の声じゃない…。
こんな感情を爆発させてる姿、見たことないよ。
ああ、そっか…。
もう、分かったよ。もういいよ…。
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