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「く、日下部…!」 「お、おいこいつ…日下部零じゃん」  突然現れた日下部に、さっきの金髪男は首を掴まれて苦しそうにうなっている。  助かったし、なんでか分からないけど来てくれたからもういいのに…手を離す気配が全くない。 「ぐっ…」 「おい!!てめえ、離せよ!」  他の3人は固まっていたけど、そのうちの1人が日下部に掴みかかった。 「あっ!やめ…!!」  それを止めようとしたけど、日下部は動じずものともせずに、掴んでいた男をそいつに投げぶつける。 「うわっ…!!!」  バタン!と大きな音を立てて後ろへ倒れる2人。 「いってぇ……」 「何してるのって聞いてんだけど」 「……っうっせぇな!お前に関係ねぇだろ!」 「関係あるよ」  日下部の気迫に、男子全員が押されて後ずさりしている。  その中で僕も…体が固まって動けない。 「どんな理由があっても、僕の大事な人に手を出したら許さない」 「……っ」 「……日下部、」  僕が名前を呼ぶと、やっとこっちを見てハッとした顔をする日下部。  傷付いてるような、怒っているような…そんな目。  今まで見たどれの目でもない。 「……その顔、殴られたの?風音くん」 「え、あ……」 「……だれ?こいつにやられた?」 「ぐっ…あ…!」  金髪男の胸ぐらを両手で掴んで、日下部は拳を振り上げた。  慌ててその振り上げられた腕に捕まって動きを止める。 「ま、待って!!日下部、もういい!」 「よくない!!こいつ…許さない!同じ目にあわせてやる…!!!」 「いいから!日下部が助けてくれたから…もういいんだ!」 「……っ」 「こ、こいつ頭おかしいんじゃねぇの…!?」 「おい、もう危ねぇって!行こうぜ!」 「ゲホッ…!誰だよ、日下部の彼女食うためにそいつボコすって言ったの!!まじ最悪なんだけど…!」 「日下部零ってもっと大人しくてなよい奴じゃなかったのかよ…!」  日下部が胸ぐらを離すと、その隙に4人は慌てて扉の方へ逃げ向かう。  それを目で追うと、扉の前に雪菜さんが立っていた。  口を手で抑えて、目を見開いている。  もう状況が読めなくて…ただ日下部の腕を掴んだまま呆然とするしかない僕。 「……おい、待て」 「……っ!」 「お前ら…、雪菜は僕の大事な幼なじみで、風音くんは僕の大事な好きな人だから。また手を出そうとしたら…ぐちゃぐちゃにしてやるから覚えといて」 「零……」 「くっ…だ、だれがするかよ!!」  その言葉を最後にバタバタと備品室から走り去っていく男子達。  ホコリが舞う部屋の中に、僕と日下部。入り口に雪菜さんがいる。 「日下部…なんで、僕がここにいるって分かったの?」 「教室に風音くんの鞄が落ちてて…なんかおかしいと思ったんだ。電話も繋がらないし…それで探そうと思って走ってたら、ここから倒れる音が聞こえたから」 「……そう、だったんだ」  安心したせいか体の力がヘナヘナと抜けていく…。 「大丈夫!?じゃないよね…ごめん、ごめんね」 「なんでお前が謝るんだよ…むしろ助けてくれてありがと」 「…っほっぺが赤い…血も出て…、ごめんね。僕のせいで…痛かったよね…。やっぱりあいつらボコボコにすればよかった」  眉毛をしかめながら僕の頬に優しく手を添える日下部は、いつも通りの日下部に戻ってる。 「だからいいんだって…。キャラ変わりすぎてるぞ。お前が来てくれて…安心したよ」 「風音くん……」  本当に驚いた。さっきは別人みたいで……。  でも、僕のために怒ってくれて守ってくれたってことは分かったから…嬉しい。  嬉しいけど、元に戻って安心した…。 「あ、あれ。あの雪菜さん…は、なんでここに」 「あ…雪菜と話してた時に教室で鞄見つけたから…一緒に来てたんだ」  そっか…じゃあ今のずっと見てたんだ…。 「えっと…その…」  何から説明しようか迷っていると、床に映る雪菜さんの影がゆっくりとこっちに近付いてきた。  顔を上げると、僕達から少し離れた所に立って泣きそうな顔で僕を見つめる。 「…っ大丈夫?」 「あ、うん…!大丈夫、です」 「……っごめ、なさい」 「え?」  雪菜さんは、突然涙を零しながらぽつりと呟く。 「私…、認めたくなくて…もう前から分かってたのに、零は私のものにはならないって…。なのに、ずっと認めたくなかった…」 「……雪菜」
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