ようこそ、ウラ京都へ

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 迷うことも揺らぎもせず前を向いたまま言う御子柴に、この人は覚悟を決めて刀を持っている人だと思う。覚悟を決めている人に、覚悟を問うような質問をした自分が恥ずかしい。 「何も知らない素人が、今更な質問してすいません」 「謝るところじゃないよ。適当に知ったかぶりされるより、僕らにとっては今更な事でもきちんと聞いてくれるほうが真摯だと思うよ」 「そう、ですかね」  麻緒には、遣刀使派遣会社を経営している承子がいる。そのことを知っている御子柴なら、承子からきちんと前知識を聞いてほしいと思われてもおかしくはない。麻緒自身が承子から祖父のことや刀のことを、あまり聞いてこなかったことを後悔しているくらいだ。 「知らないことを知らない、だから教えてって大人になると言えなくない? 会社員って、自分で調べてから聞けって言われるんでしょ?」 「そうですね」  調べるにも、新人ではどこに何があるのかわからない。そんな状況下で困ったのも、会社員を離れた今となっては懐かしい話だ。  ――それで親切に教えてくれた市井さんと付き合うことになったんだっけ。  付き合い始めた当時は浮気されるとは思わなかったし、まして相手が梨々香であるとは夢にも思わなかった。会社員一年目で右往左往していた頃はもう懐かしい思い出だが、市井と梨々香の結婚はまだ胸に黒いしみのようなものが広がってしまう。 「僕ら現場の人間はともかく、サポートの人たちはきちんと説明とかあるみたいだし。僕も承子さんもいるから大丈夫だよ」 「はい」  返事をしてから、御子柴が何を指して大丈夫と言っているのかわからないことに気づく。わかったのは御子柴のように遣刀使を名乗る人たちが現場、承子のように御子柴たちを後方支援する人間をサポートと呼んでいるようだということだけだ。 「この業界、万年人手不足なんだよね。かと言って、普通に採用募集できる仕事じゃないし」 「確かに、そうですよね」
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