才能がひとつだけあるとしたら

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目が疲れたなら、目薬をさしてからアイマスクをして、20分ほど休めばいい。 私にとって職業病は、もはやマイナスよりプラスになっていることのほうが多かった。 とはいえ職業病は後天的なものであり、生まれながらの才能ではない。 私は仕事をしながら自分の才能を自覚したことがない。 「私ってこの仕事に向いてるな」と思ったことがない。 文章力や表現力を褒められることがある。嬉しいが、それは子どものころから読んできた本のおかげであり、後天的な能力だ。生まれつき持っていた才能ではない。 一方で、もし私が読書好きでなければ、書く仕事に憧れることはなかっただろう。 自分の才能を生かせる仕事。自分の好きな仕事。 10年ほど前の私は、このふたつを混同していた。 総務や人事補助の仕事では、「向いていない」と落ち込んでベッドから起き上がれなくなり退職に至ったこともある。 昔の同級生が、ひとつの会社でずっと働いている姿を見ると、彼女は仕事をするなかで自分の才能に気づいたのだろうと察する。 私のように会社員からドロップアウトすることのなかった同い年の人たちを見て、いまだにうらやましいと感じる自分がいる。 私には才能がないのだ。 今までしてきたどの仕事に対しても懸命に向き合ってきたつもりでいる。 でも結果を残せなかったということは、努力が足りなかったのではなく自分に才能がなかった。それだけのことなのだ。 才能がなければないなりに、携わった仕事を利用して強みを作れば良い。 そうやって考え方を切り替えたきっかけは、数年前、日本語学校の入学式で司会の仕事をしたあと、声をかけてくれた先輩の日本語教師の言葉だった。 「司会の経験があるなんて知りませんでした。どんな仕事でもチャレンジすれば思いもしないところで役に立つんですね」
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