実を結ばない花 ―金木犀と神隠し5―

10/13
前へ
/14ページ
次へ
 こういう、半分まだ寝てるようなこの人は、ふにゃふにゃしててえらく可愛い。 「おいで」  腕枕を出されて、頭載せると抱き寄せられて額にキスされた。  胸元に鼻先すりつけて、俺は言った。 「あんたの匂いする」 「……飴みたいに甘い?」 「……うん」  甘い、けど。  寝る前にシャワーは行ったはずだし、この人は普段はあんまりそういうものを感じさせないんだけど、事後はやっぱりどこか男の匂いがする、ように思える。 「……思ったんだけど」 「なに?」 「俺ら男同士で、……あの百合じゃないけど、生き物的には惹かれ合うようにはつくられてないはずだろ?なのに、俺はあんたが好きだし、あんたの匂いも好きだ。それって、不思議だなと思って」  黙って、奏人さんは俺の頭を撫でて、また額に唇を押しつける。 「……そうだね。そういう視点で考えると」 「みんなが繁殖っつか増やすこと第一に作られてたら、そういう、個人の趣味的な余地も多分ないはずだろ?遺伝子的とか最初から」 「……うん」  雨音の中、そっと髪を撫でられて、額や目元にキスが落とされると、心地良くて瞼が重くなってくる。  すう、と寝落ちかけた時 「きみは、そういう自分が苦しい?」 声が降ってきて、意識が引き戻される。  ……苦しいか苦しくないかといえば、多分苦しい。  後悔も、この人に代えられるものも無いけど。    でも、彼女がいるか聞かれて答えるようには、親や職場の人に話す気にはなれない。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加