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こういう、半分まだ寝てるようなこの人は、ふにゃふにゃしててえらく可愛い。
「おいで」
腕枕を出されて、頭載せると抱き寄せられて額にキスされた。
胸元に鼻先すりつけて、俺は言った。
「あんたの匂いする」
「……飴みたいに甘い?」
「……うん」
甘い、けど。
寝る前にシャワーは行ったはずだし、この人は普段はあんまりそういうものを感じさせないんだけど、事後はやっぱりどこか男の匂いがする、ように思える。
「……思ったんだけど」
「なに?」
「俺ら男同士で、……あの百合じゃないけど、生き物的には惹かれ合うようにはつくられてないはずだろ?なのに、俺はあんたが好きだし、あんたの匂いも好きだ。それって、不思議だなと思って」
黙って、奏人さんは俺の頭を撫でて、また額に唇を押しつける。
「……そうだね。そういう視点で考えると」
「みんなが繁殖っつか増やすこと第一に作られてたら、そういう、個人の趣味的な余地も多分ないはずだろ?遺伝子的とか最初から」
「……うん」
雨音の中、そっと髪を撫でられて、額や目元にキスが落とされると、心地良くて瞼が重くなってくる。
すう、と寝落ちかけた時
「きみは、そういう自分が苦しい?」
声が降ってきて、意識が引き戻される。
……苦しいか苦しくないかといえば、多分苦しい。
後悔も、この人に代えられるものも無いけど。
でも、彼女がいるか聞かれて答えるようには、親や職場の人に話す気にはなれない。
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