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「他の日に出来たらいいんだけど、しょうがないね」
「何か用事でもあんの」
「クーラーの調子が悪くて業者さんが来るのを任されていてね。他の人はちょうど手が空いてなかったから」
ぶつぶつ言いながらワイシャツの袖に手を通すのを、俺は申し訳ないけどベッドに寝転がったまま見ている。
社員になって疲れているだろうから休んでていいよ、と言ってくれるのに甘えて。
「……暑いから、気をつけて」
「ありがとう。最低限の用が済んだら帰ってくるよ。何か冷たいものでも買って来ようか」
「うん」
「何がいい」
「任せる」
笑って、奏人さんは俺の頭を撫でて頬にキスを落とす。
「じゃあ、行くけど……そうだ、ゆうべの話だけど」
「ん?」
「夜中に話したろう?どうして生殖には繋がらないのに惹かれ合うのかって」
「……うん」
「思うんだけど、神様だって馬鹿じゃないだろう?僕らを創ったものを仮にそう呼ぶならの話だけど」
ベッドに腰かけて、奏人さんは続ける。
「もしも快楽が生殖のための餌なら、実際受精につながるわけでもないのに、僕らがそれを得られるのはおかしいじゃないか。あまつさえ、自分の手でそれを得ることすらできる。それは創造主としては余りにも手落ちというか大雑把じゃないかい。餌だけ都合いいように搾取されるばかりなんて」
「……確かに」
「だからね、……もしかしたら、生殖に意味を見出しているのは人間だけで、神様は意外にそんなことに頓着ないのかもしれない。僕らは数ある種のひとつに過ぎないのだろうから」
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