52人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうだね。実は僕もだけどね。でも花に罪はないし、捨てるのも外に出すのも、お付き合いもあることだからちょっとね。少しの間だから我慢して」
そう言って苦笑する。
「まあな。分かるけど。……ってか、なんか外のと見た目違うと思ったら」
「うん?」
「これ、あれ?雌しべみたいなやつ、取ってんの?」
花の中心から生えた茶色の花粉の鞘みたいな部分が無い。
「それはどちらかというと雄しべの方だね。受粉してしまうとすぐに枯れてしまうとかで、もう取った状態でくれたんだよ。その真ん中に残って蜜を垂らしてるのが雌しべ」
「……そうなんだ」
「もっとも、百合の花粉は服に着くとなかなか取れないから、その意味でも取ってある方がいいしね」
「ふぅん……」
そう聞くと、この強い香りも意味が違うものに思えてくる。
まじまじと眺めていると
「何か、気になった?」
「いや、……ってことは、この香水みたいな匂いも、派手な花も、子孫残すためで。目的が果たせたらすぐ枯れるって、すげー潔さだなと思って」
奏人さんは笑った。
「そうだね。それが普通なんだろう。生き物にとっては。我々がおかしいのかもしれない。カマキリだって交尾が終われば雄は雌に喰われて養分になるだけだし」
「そうなの!?」
「知らなかった?」
「……知らない。なにそれ、エグい」
「きみは子供の頃でも外で虫の観察なんてしなかったろうからね」
笑う奏人さんに俺は言った。
「いや、田舎は山ん中だし虫くらい見てたけど、それは知らない」
最初のコメントを投稿しよう!