祝勝会

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祝勝会

「お前、清水とやりあったらしいな」  ジューーーーーと、肉の焼ける音の間から花田さんの声が聞こえた。それを聞いて私はチラリと花田さんに目を向けたが答えられない。 「それで、どうなんだ。やりやすくなったか」  またジューーーーーと煙が上がる。さっきから花田さんは話題を投げてくれているが、私の口は開かない。開けない。絶えずもぐもぐと動いているからである。 「うまいか」  先ほどから焼肉奉行と化した花田さんが私の取り皿に、脂が良い感じに弾けた肉を乗せるからである。あろうことかサンチュに巻いてくれようとし始めたので、それは固辞した。過保護がそこまでくると花田さんが心配である。  ごくん、と飲み込み。やっと返事をする。 「花田さんにもそういう情報を教えてくれるお友達がいたんですね……あと、美味しいです」 「お前の中の俺が心配だよ。もう少し優しくしてやってくれ」  部下の生意気な口ぶりにはもう慣れたのか、過剰な反応はせず肉の世話を続けている。  なぜまた花田さんと食事をしているかと言うと、強制連行されたからである。  お腹は減っていないと理由まで作って辞退したというのに、それでも誘われたのだ。「飯食いに行くぞ」と。これはあれだ、聞いてほしい話でもあるのかなと察した。あと肉の魅力には勝てなかった。  外食慣れしている花田さんが選ぶ焼肉屋さんの肉は美味しかった……黒毛和牛を一頭買いしているらしい。なんだかすごそう。そして、誰かに焼いてもらう肉はもーっとおいしい。  もぐもぐと絶えず口を動かしていたら、なんだか前方から視線を感じソロリと目を上げた。  注がれている視線はやっぱり向かいにいる花田さんで、なぜだか満足気にこちらを見ている。そんなに見られては落ち着いて肉を味わえないじゃないか。 「……なんですか」 「いや、うまそうに食うなって思って。これは祝勝会だからな、もっと食え」 「えっ、何か私、勝ったんですか?まだ清水さんに土下座してもらってないのですが……」 「お前の勝利条件は厳しいな」  そうじゃなく、と勿体ぶってニヤリと笑う顔はどことなく気を許しているように見えて、不覚にも少しだけかわいいと思ってしまった。
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