祝勝会

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 目の前のご機嫌な酔っ払いの様子を見て、言葉の続きを聞くのは今度にしようと決めた。それに、ちょっと弱気になっていた気持ちがどんどん霧散していく。まあいいか。なるように走るしかない。花田さんに恩返しするという目標があるのだ。その方向に走っていけば間違いない。  ───目標を見失わなければ、判断はぶれない。  昔の花田さんの助言を思い出して、目の前の花田さんに目を向ける。あの時の花田さんより、今の花田さんは少し気が抜けているように見える。 「今回の主任昇格は通過地点だ」 「はい。これから資格試験もあるので引き続きがんばります。キムチ頼んでいいですか」 「いいぞ。ついでに冷麺も頼む」  酔っていても器用に焼肉奉行を務める花田さんに肉をもらいながら、またモグモグと口を動かした。  冷麺が来るのを待っているのか、花田さんがご機嫌な様子でこちらを見てくるので落ち着かない。「うまいか?」と聞いてくるのはたぶん二度目だ。美味しいです、と答えるのも二度目だ。落ち着かないからあまり見ないでほしい。  何が楽しいのかご機嫌な様子で目を細めながらお酒を飲む花田さんを、視界に入れないように口を動かす。そして飲み込んだタイミングで花田さんが口を開いた。   「……森田は期待に応えようと足掻ける。心配すんな」  ちょうど口が空で、返事をしないわけにいかない。策士だ。 「過大評価すぎませんか。先日から私への評価がインフレ起こしてますって」 「褒められたら素直に受け取っとけ」 「……アリガトウ、ゴザイマス、?」  素直に受け取るほど褒められた気はしていないんだが???  ふはっ、と花田さんが笑ってむせていた。美形はむせても汚くならないらしい。  よっぽど私の納得していない顔がツボだったのか、なかなか笑いがおさまらないようだった。 「花田さんのアシスタントになって一年と少しぐらいですが、そんな評価頂けるとは光栄です」 「薄情だな、二年前だろ」  二年前、と言われても身に覚えが無く頭を傾げてしまう。 「お前が見てろって言ったんだろ。非常階段で」  脳内検索”非常階段”でサーチしたところ、ヒットした出来事がそういえばあった。
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