脳内検索

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「ふーん、まあ言われて気になるような存在の人ってことかな」  確かに。自分にとってなんでもない人に言われても、たぶんここまでモヤモヤしなかっただろう。 「仲いい人に相談してみたら?流川さん、だっけ。良いアドバイスくれそう」 「……さすが、もう覚えてるんですね」  ビクリと、今度はときめきでは無い方で胸が跳ねた。  まさか悩みのきっかけになった人物に相談できるはずもなく、誤魔化すように「あー、まぁ、彩さんとは、そんな関係じゃないので」と口をついた。  まあ、私は親しいと思っていたが、彩さんにとってはそうでもなかったのかもしれない。ちょっと落ち込んでしまうが、そんな時もある。  こんなにモヤモヤしていたのは、彩さんに頑張りを認めてもらえなかったと思ったからなのかもしれない。裏を返せば、彩さんに認めてほしいと思っていたということなんだろう。 「認めてほしかったんですかね……。たったそれだけなのに、自分のやっていることが正解なのか迷っちゃって」  困っちゃいますね、と眉を下げて花田さんの方を見上げれば真剣な視線とぶつかった。 「迷うことはないよ。目標を見失わなければ、判断はぶれないんだから。そのまま進めば、その人も認めるしかなくなる」  弱音を口にした時は笑って消化できれば良いと思っていた。  言語化できないような小さなわだかまりはそのまま捨ててしまえと。  だから、たまたま話の流れで付き合わせてしまった花田さんがこんなに真剣に耳を傾けてくれるとは思わなかった。  こうして助言をくれるとも思っていなかった。 「森田さんは期待されてるし、期待に応えようと努力してると思うよ」  そう花田さんは軽くほほえみながら言った。それは見ようによっては作った愛想笑いのように見える。でも私はそうは思わなかった。きっと私にプレッシャーを与えないようにしているのだとなんとなく思った。    ぐっ、と喉の奥が詰まった。 「あ、入社したばっかりのくせにって思ってる?」  花田さんはカラカラと笑った。この人は私が受け入れやすい雰囲気と言葉を作って励ましてくれるような優しい人だ。 「じゃあ、これから森田先輩の働きを見せてもらおうかな」 「馬鹿にしてますよね?」 「まあ、花田さんに見られて恥ずかしくない程度には、足掻こうと思います」 「はは、楽しみだな。また今度、進捗聞かせてよ」  回想終了。   ってことがあったことは覚えているが、「見てろ」とは言っていないはずだが???私の記憶にないだけで、そんな女王様的人格が隠れているんだろうか??? 「あの後、食事に誘ったら『彼氏ができたから二人はちょっと』って言われて展開の速さに驚いたな」  そういえば、ちょうどその頃に辰己と距離が縮まり付き合うことになったのだった。  花田さんは非常階段での一件に気遣って親切心でアフターケアをしてくださったと思うが、当時の辰己はとてもヤキモチ焼きで仕事関係とはいえ異性と二人きりは厳しかったのだ。 「純情を弄ばれた俺は、あの日から”いい子ぶる”のをやめたんだ……」  待望の冷麺をシェアしてくれるらしく、小さく盛られた冷麺が目の前にコトリと置かれた。 「またまた、女の骨までしゃぶるような方が何をおっしゃいますか」 「お前の中の俺のイメージ回復したいんだけど間に合いそう?」  まあ、日頃の行いですよね……と心の声が聞こえたのか、花田さんが軽く睨みを利かせた。当時の爽やかで優しいイメージは、現在では見る影もない。  しかし、当時も今も根本的な面倒見の良さとかそういうのは変わらない部分もあるのかもしれない。目の前の冷麺に感謝しながら箸をつける。 「そのうち彼氏に弁当作っただの結婚するから貯金するだの言ってたのに、その彼氏とやらが既婚者だったわけだが」 「今この瞬間にイメージ悪化しましたが大丈夫そうですか?」  人の傷口をわざわざ触る悪魔を見るような顔がお気に召したのか、花田さんは吹き出して笑った。あの日の非常階段で見たような笑顔で。 「まあこうして飯に誘えるようになったのは、よかったかな」  今、ドキッとしたのはきっと回想したからで。  変に意識していると思わないように、言葉の意味を深く考えないように目を逸らした。 「よっぽど寂しかったんですね……独身貴族の道は険しそうですね」 「おい」
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