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風化
営業フロアの端にある、女子社員用の休憩室にて。
以前は賑やかだった昼休憩の時間だが、ここ最近は特定の人物が集まることが多くなった。
今日もなんだか重苦しい空気が漂っている。
「───今度は花田さん狙ってんじゃない」
「手当たり次第じゃん(笑)」
狭い室内を牛耳るかのように中心でいつもの陰口を囁いているのは、営業アシスタントの清水と、営業の中村だった。
それを困った顔で見ているのが流川だった。
「やめなよ、ただでさえ今の空気悪いんだから。いつまでも……」
「別に悪くしてるのは私たちじゃなくて、森田が悪いんでしょ」
この調子で諌められてもおさまらない様子に、しらけたような空気が一方では流れ始める。
「まあまあ、ほどほどにね。私、ちょっとごはん買ってくるね」
「私も」
「じゃあ、また後でね」
一人、また一人と休憩室から面子が減っていく様子もまたヘイトが特定の人物へ向く要因でもあった。
おそらくもう戻ってこない同僚たちを見送り、清水と中村は顔をしかめた。
「なんか、ずるいよね。悪いことをしたのは森田なのに、時間が経つと『いつまでも』とか過去の話みたいに許されてさ」
「こうやって悪事が風化するのって良くないよね。傷ついた方は忘れられないのにさ」
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