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ね? と二人の視線が流川に向いた。
流川はその視線を困ったように受け止め、俯く。
「でも本当に、もう終わったことだから……。結局、夫が選んだのは私だし、もう一人じゃないし」
流川は愛しそうに存在感が増した腹を撫でた。
梯子を外されたかのような流川の言葉に眉を寄せた清水と中村だが、顔を上げた流川の目が潤んでいることに気を取られて過った感情が霧散する。
「終わったことだけど、やっぱり、森田ちゃんを見てるとつらい気持ちもあって……ごめんね、こんなこと」
「っ、ううん!大丈夫だよ!」
「泣かないで、私たちはわかってるから。ね」
「ありがとう……仲が良かったから、あの頃みたいに戻りたいって気持ちもあるけど、上手くできなくて……あはは、弱音ばっかりだね」
流川の演説に感じ入ったように二人は目を潤ませた。
二人の心に流川の気持ちが流れ込んでくるかのようだった。
「彩さんがこんなにつらい気持ちをおさえて頑張ってるのに、森田は昇格ってずるいよ」
「そんな、森田ちゃんは頑張ってるから……」
「あんなの、人の仕事を自分がやった風に見せてるだけだから!」
「え、なにそれ。そういえば営業部会でやたら森田の資料が出てくると思ってたんだけど、横取りしてたの?やばくない?」
清水の言葉に中村がピクリと反応する。
中村は営業部隊の人間で、普段オフィス外にいることの方が多い。
だから清水から森田の話を聞いて驚いたのだ。あの大人しそうな森田が裏ではそんなことをしていたのかと。にわかには信じられない話だったが、流川の憔悴した様子を見ればどちらを信じるかは明白だった。
「これから営業部会があるから、そこでもちょっと聞いてみるよ」
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