ミーティング

3/5
前へ
/39ページ
次へ
 おそらく小さな声で挑発して、反応した私が怒鳴る声をパーテーションの向こうにいる部内の人間に聞かせたいのだろう。  ニヤつく清水さんの顔をじっと見て、ニヤニヤ笑いがおさまるのを待つ。口角が下がり、やっと怪訝そうな顔になったところで、こちらもニッコリと笑って「そうですね」と返事をした。  そして息を吸い込み肺を満たす。  「清水さんのおっしゃる通りですね。以前から清水さんと流川さんの業務分を何点か受け取っていますので、現在の未完成の引き継ぎ資料で特に問題はありません。お給料を貰っている分、やることはやるべきとのありがたいお言葉も頂けましたし、私の方で処理させてもらいます。今以上の用意は必要ありません。体調に気を付けてお過ごしください」  しっかり聞こえるように、明朗な発音を心がけた。 「えっ、ちょ」 「ちょっと……!」  など、一通りのリアクションを見ることが出来たが、彩さんは違った。  ミーティング開始からずっと視線を伏せていた彩さんの表情は変わらない。悲しみも、嘲りも、驚きも浮かばない。彩さんだけが、ただ座っていた。  調子を取り戻した中村さんが、周囲にフォローするように声を出す。 「森田さん、その言い方はマタハラになるんじゃないの?まずいよ」 「そ、そうですよ!最近の流川さんへの嫌がらせは目に余ります!」  援護に清水の声も加わった。  名前を出された彩さんは、ゆっくりと視線を上げて「もういいですから……」と弱弱しく答えた。 「ちょうどいい機会だからはっきりさせようよ。森田から嫌がらせを受けてるって。会社でいじめとか恥ずかしいと思わないの?仕事しに来てるんだから」  それでも引けない中村さんと清水さんはヒートアップしているようだった。それはそうだ。このまま話が終わってしまえば、問題発言をしたと噂されてしまうだろうから。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

452人が本棚に入れています
本棚に追加