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「──中村さん」
悔しそうに顔をしかめている中村さんと視線を合わせる。
「先ほど、営業部はみんな気付いているとおっしゃっていましたが、間違いありませんか?」
「しつこい。そりゃ気付くでしょ。あがってくる資料に頻繁に森田の名前があれば」
ここで清水さんが苦い顔をした。前回のやり取りをやっと思い出したようだ。
「では、営業部の皆さんが気付くほど、私が他の方の業務を代わりにこなしていたわけですが。その間、本来の担当者は何をされていたのでしょうか」
ちらりと清水さんに視線を流すと、中村さんは不思議そうに清水さんを伺うように見た。
「私はどの取引先の何の資料を自分が担当したのか記録しています。なので──」
「だから!不倫するような人のことなんて信じられないって言ってんの……!!」
バン!!と机を叩く清水さん。それを中村さんが慌てて止めている。
異様な空気にパーテーションの向こうからは物音が小さくなっている。
「──前々から思っていましたが、事実と異なる件を持ち出すのはやめてください。迷惑です」
なにを……!といきり立つ清水さんから視線を外し、今度は彩さんへ視線を移す。
いつからだったのか、彩さんの視線はこちらにじっと注がれていた。
それを私も静かに見つめ返す。
おそらくこの場で真実に近いことを知っているのは彩さんなのだから。
「……それに個人的なお話は業務外でしましょう。業務には個人の好悪は関係ありません。コンプライアンス室から連絡が来る前にお互い気を付けましょう」
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