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キーンと耳鳴りがするほどの無音だった。
もちろん、この沈黙を破ったのは彩さんだった。
彩さんの”いつも通りの”笑い声が更衣室に反響する。
「──惨めなのはあんたでしょ」
いつも通りの声色。
「結婚するんだってみじめったらしく弁当まで作って馬鹿みたいだった。元から少ない給料を節約したってたかが知れてるのに、頑張ってます感出されても、それがなに?ってほんとうざかった」
そういえば、彩さんに飲み会やショッピングなんかに誘われても付き合いが悪くなっていた気もする。断るたびに『自分磨きをしないと彼氏に飽きられちゃうよ』とか『自分に投資して、自分の価値を高めてるんだからお金を出すのは彼氏の義務』なんて彩さんは言っていた。
「結局捨てられて、金までとられて、あんたには何にも残ってない。使われただけなのにイタいんだけど」
私はそういう考えもあるんだなと思っていたが、彩さんから見れば目ざわりだったのだろう。愚かで、目障りで、わからせてやりたくなるぐらい。
「あんたは私の代わりに手切れ金を払っただけ。ご苦労様」
先ほどまでの勢いは無く俯いて黙っている私に満足したのか、今度は優しい手つきでロッカーの扉を閉めた。
「辰己に捨てられたからって不誠実とか言うの笑っちゃうんだけど。あんたに魅力が無いから大切にされないだけでしょ?
辰己が言ってたよ。あんたみたいな地味で自分の意志が無さそうなのはつまんないって。寄生虫みたいに依存されそうで怖いんだってさ」
あはは、そうだ良いこと教えてあげるっ!とやけに明るい口調だった。
「──奥さん、あんたのこと恨んでたでしょ」
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