ペンギンさんとピコピコさん

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 1101、1101。  うーん、見つからないな。  1101、1101。  ……あっ、ここだ。    1101号室。ここが今日のオフ会の会場か。  今日はゲーム同好会の初めてのオフ会だ。カラオケに集まろうということになった。でも、他の人たちは急に都合が悪くなったみたいで、私とピコピコさんの二人だけになった。  うーん、ピコピコさんってチャットの中だとすごく礼儀正しい人みたいだけど、実際はどんな人なんだろうなあ。もう中で待ってるみたい。緊張するけど。  私は1101号室のドアをおそるおそる開ける。 「こんにちはー……」  中を覗くと髪の長い綺麗な女の人がソファーに座って歌が流れる画面を凝視していた。何か声かけづらいな。私は緊張が声に出ないように、努めて明るい声を出した。 「あ、あのー、ピコピコさん?」  するとピコピコさんは私に気がついて、ソファーから立ち上がると。 「こんにちはー」  ベコーッて感じで頭を下げる。地面に髪の毛ついちゃってるけど、いいのかな……。  とりあえず私は用意していた挨拶文句を口に出した。 「こ、こんにちは。あ、あの、ピコピコさん。はじめまして。私ペンギンです。今日は、よろしくお願いします!」  そしてペコッと頭を下げた。  ……何の反応もない。私は頭を上げるとピコピコさんは右手を顎に添えて首をかしげていた。どうしたんだろう。 「あの、ピコピコさん? どうかしたんですか?」  もしや何か失敗した……? 「あなたはペンギンではなく人間に見えます」 「へ?」  どういうこと? 「むむ、人間に見えて実はペンギンなのですか?」 「いや、いや、違いますよ、れっきとした人間です!」  急に何を言い出すんだ、この人は。 「そうですか。しかし、あなたは人間なのに先ほどペンギンと仰いました」 「いや、あの、それは私のハンドルネームで……」 「ハンドルネーム?」  またも首をかしげるピコピコさん。 「『ペンギン』ってハンドルネームの人間ですよ……。あなたは『ピコピコ』さんってハンドルネームじゃないですか……」  ピコピコさんはひらめいたように目を見開くとパンッと両手を叩く。 「ああ、私のハンドルネームは確かに『ピコピコ』です。『ペンギン』さんはペンギンではなかったのですか?」 「いや、そんなわけないでしょ! まさか今の今までペンギンだと思ってたんですか?」 「ふむ、喋るペンギンもいるのだな、と自分の知識を疑っていましたが、どうやら私の知識は正確なようでした」 「正確な知識?」 「はい、喋るペンギンはいなかった!」  ぷっ、と私は吹き出してしまう。真面目で礼儀正しいと思っていたピコピコさんは、少々変わっていたけど、面白そうな人だった。
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