ペンギンさんとピコピコさん

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「改めまして、ペンギンです」  はじめの緊張はどこへやら。私はすっかりピコピコさんにある意味で打ち解けていた。  私はピコピコさんの斜め向かいに座った。 「ゲーム同好会のペンギンさんは、東京都出身、性別は女性、年齢は二十一歳。身長は156.6cmです」  何故か説明されるけど、そんなことより。 「何で身長がわかるんですか!?」  めちゃめちゃ細かいし。ピコピコさんは口の前で指を×にする。 「企業秘密でした」  仕草が何ともかわいらしい。けど。 「いや、わけわかんないんですって。企業秘密って何ですか?」 「先程の質問事項に、話してはいけない内容が含まれていたので企業秘密と答えるようにと言われています」  いやいや、どういうことなの。ピコピコさんってやっぱりちょっと変わってる? 「それじゃ、ピコピコさんの身長はいくつなんですか?」 「企業秘密です」  ピコピコさんが、また指で口の前に×を作る。かわいいけども……。 「いや、何でですか……」  身長は、話してはいけない内容なのか……。  色々話していたら喉が渇いてきちゃった。 「ピコピコさん、喉渇きません? 何か頼みましょうか?」 「私は喉は渇きません」 「そ、そうですか」  うーん、打ち解けたかなと思ったんだけど。ピコピコさんってちょっと無愛想な感じの人なのね。 「じゃあ、とりあえず私頼みますね。ついでにお菓子も頼んじゃいましょう」  私は店員さんに電話をかけ、オレンジジュースとポテトを頼んだ。 「ピコピコさん、せっかくカラオケ来ましたし、何か歌いませんか?」 「わかりました。何か歌いましょう」  ほ。よかった。 「えっと、ピコピコさんは何を歌いますか?」 「私は歌を歌ったことがありません」  え、冗談よね。本気で言ってるのかしら。 「えっと、カラオケで歌ったことがないんですか?」 「カラオケで歌ったことがありません」  あ、なーんだ。カラオケでは歌ったことがないって意味か。  そりゃそうよね。いくらなんでも歌ったことのない人なんて。 「えっと、ピコピコさんはどんな歌が好きですか?」 「私には好きと思えるものはありません」 「……」  どうしよう。歌ってれば、とりあえず気まずくはならないかな、とか思ったけど。 「えっと、じゃあ私が歌います」 「はい。歌ってください」  曲が流れる。  私はマイクを持って歌を歌う。ピコピコさんがこっちを凝視している。何だか恥ずかしい。  私は立ち上がって、踊ることにした。なるべくピコピコさんと視線を合わせないように。    曲が終わる。  ふー、熱唱したぜ。私は頭に手をかざす。って、何かカッコつけちゃった。はっず……。  私は姿勢を整えてピコピコさんに体を向ける。 「ど、どうでしたか?」 「原曲で歌うと、高音が出しにくいようです。もう少しキーを下げるべきです」  まさかのアドバイス。さっきの恥ずかしすぎる振り付けに対するリアクションもない。それはそれで寂しい。 「そ、そうですか。ありがとうございます」  カラオケに来たことなさそうなわりに、そういうことは詳しいのね。ますますわからなくなってきた。 「ペンギンさん、声が少しかすれています。飲み物を飲むべきです」 「あ、ありがとうございます……」  私はソファーに戻り、ピコピコさんの言うとおりジュースを飲んだ。  ふー、おいしい。  ピコピコさんの顔を見る。ピコピコさんって、無愛想に見えるし、ちょっと変わってるけど、ちゃんと人のことを気に掛けてくれてるのね。 「ピコピコさん、次はピコピコさんが何か歌ってください」 「何を歌えばいいですか?」 「えっと、じゃあ……」  私はデュエットものを選んでこれにしようと言った。 「なるほど、わかりました」 「これは二人で歌いましょう」 「二人でですか?」 「はい。私と声を揃えて歌うんです」 「声を揃えて? 何のために?」 「その方が楽しいからです」  ピコピコさんは首をひょこっとかしげた。 「……ペンギンさんはそれで楽しいんですか?」 「はい、楽しいと思います!」 「……そうですか。それなら歌いましょう、二人で」  
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